かみむすび(36)時の砂漠
私は立ち止まってこれから流れていく果てしない時を眺めた。
時は砂漠のように広がり、遥か彼方には水平線が熱気でくもっていた。
足元の時は風に舞う砂のようにサラサラとその地平線へと流れている。
目指すべき何もそこになく、私は何処へ行くべきかも分からない。
立ち止まっていれば、強い日差しと熱風が私を削り取っていく。
そこで私は一歩を踏み出すが、そのたびに地平線は遠のくのだ。
誰かとすれ違えば、お互いに何処に行くつもりなのか気になる。
誰かと歩くこともあるが、誰も何処に行っていいのか知らない。
私は時の砂漠をさまよう風の行者のようにひたすら歩き続けた。
そこで何度も倒れて、乾いて砕けて砂漠の砂に眠った。
そこからまた私は目覚めて、時の砂漠に立ち上がるのだ。
そしてひたすら地平線の何処かを目指して歩く。
私がこの旅を終えたのは、地平線に沈む夕日を眺めていたときのこと。
私は歩くことをやめて、そのまま時の砂漠になったのだ。
時の砂漠には何もなかったが、すべてがあった。
私は何処に行くのか知らないのではなく、すでに到着していたことを知らなかったのだ。
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