かみむすび(28)夏の秘密
夏の秘密
夏の日の午後に吹く風は薄い青の至福を運んでくる。
私はその至福を愛おしく抱き締めるが、風を刺す熱風がそれを引き剥がす。
風のない夏の夜は眠れない池の濃い緑に身体を沈めている。
緑の影の中で小さく叫ぶ無邪気な魂が私の生き血を求めてくる。
それでも私は夏を重苦しいと感じたことがない。
濡れて滲んだ身体がそれを感じて、いつも困った顔で私に手渡すのだ。
私はそれを受け取って、それをに手に載せたまま夏に立っている。
夕方の土砂降りの雨にさらされて、静かに灰色渦巻く空を見上げている。
すべては私でつくられている私の世界なのだ。
私の表情は常に移り変わっていく。
どんな夏の暑さも冬の寒さへと向かい、私の呼吸ごとに色彩を変える。
色彩はいつも私であり、その美しさを光にして風の中に放っている。
この世界にあなたという存在はいない。
ただ私という存在だけがいるのだ。
どれだけ世界が変わっても、私は変わらずにそこで見つめている。
世界は私の中にあって、夏の風の至福にそれは秘められている。
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