最後の教えはあの夜に語られた(10)
私は一体誰なのだ。
虚空の闇に溶け込んでしまって、私は自分自身を失った。
ここでは自分が人間だということを証明することすらできない。
証明するための手立てさえ何もない。
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私は光を求めていた。
光さえあれば、私は自分が存在している証明を手に入れられると思った。
私はすべてを圧倒する闇の中でわずかな光を探し求めた。
そして、その時が訪れた。
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闇が薄れていくのを感じた。
それは気のせいではなかった。
遥か彼方から闇を追い払うように明るくなっていく。
私は山の頂に座っていて、美しい地平線を見つめていた。
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地平線から太陽がその姿を現した。
そして太陽は空と大地を明るく照らしたのだ。
私は光にあふれる世界を見ていた。
私は光が戻ったことに安心し深い幸福を感じた。
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眼下の森の木々たちは緑深く葉を茂らせ、その葉たちは風に身を任せて踊っていた。
雲が山の裾野にたなびき、龍のようにゆっくりと流れていった。
何処かにある町の人々の声が谷の風に乗ってここまで届けられた。
太陽は天高く登り、すべてに惜しみなく光を注いだ。
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私はそれを黙って見ていた。
それを見ているだけで幸せだった。
やがて太陽は西に傾きはじめ、徐々に光が失われていった。
地平線に太陽が沈んで、あたりは闇に覆われた。
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私は再び闇の中に取り残された。
そして私はまた自分を失った。
太陽の光に照らされた美しい世界は、もはや記憶の中にしかない。
現実は闇の中にいるということだけになった。
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