かみむすび(25)失った日々
何をしているのか分かっているつもりでいた。
何でも分かっているつもりになっていた。
自分が人生を手の内にしている気になっていた。
そうして私は油断していたのだ。
足元がぐらついていても、揺るぎないふりをした。
それが不要と知っていても、ずっと握りしめていた。
悲しい記憶さえ、生きている実感の灯火にした。
そうしないと自分が霞んできそうだった。
乾いた風と熱を帯びた陽の光で私の意識は朦朧としていた。
水が欲しいと思ったが、ずっと前に捨ててしまった。
土砂降りの雨が私からぬくもりを奪っていった。
傘がほしいと思ったが、それも捨ててしまった。
いったい私は何を失ってきたのか。
それを思い出すためにはあの扉を開けなければならない。
愚かで愛おしい私の抜け殻に別れを告げるのだ。
そして私は身が震えるほどの自由の中に放たれる。
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