かみむすび(22)森の香り
初夏の雨上がりは森の香りが空へと放たれる。
柔らかな風がそれを私に届けて笑いながら去っていった。
眠い目を開ければ空の青が私の中に流れ込む。
そして私は境界を失ったのだ。
私は自分の境界を作ることに心を傾けてきた。
そうすることが自分らしくあることだと思った。
それは美しい森になっていった。
そして私はその森で眠ってしまった。
私は森の中で夢を見ていた。
私はそこでも美しい森をつくっていた。
夢の中の森は色鮮やかに美しく飾られていった。
そしてあの森は色あせた悲しみに打ち捨てられた。
私が目覚めて境界を失ったとき、あの森はそこによみがえった。
初夏の青い空は森に雨を降らせる。
私はすでに境界を失っていたが、森をその手で抱きしめていた。
森は喜びで風の中にその香りを放った。
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