破壊神は我々の世界で優雅に踊る(17)
「いま我はお前たちとこの世界を破壊するに十分な歪を感じる」
私は人間たちに最後通告をした。
人間の世界に介入することは守護神の本意ではない。
だが、私は人間たちを間違いから守らなければならないのだ。
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「守護神ナルタカよ、どうか怒りを鎮めてください」
そんな人間たちの懇願は私の激しい怒りの前では毛ほどの力もなかった。
岩の周りを渦巻く白い光は勢いを増していった。
それにつれて、私は怒りで我を忘れていった。
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もはや誰もこの怒りを鎮めることなどできない。
私は自分でもどうにもできなくなった。
光の渦はそれ自体が意志を持っているかのように大きく伸びていき、神殿の天井を突き破った。
そして、神殿全体をその渦の中に取り込んでいった。
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私は巨大な白く輝く渦になり、それはさらに分かれて増えていった。
その渦たちが大地をなめるようにゆらゆらと移動していく。
それは何人もの踊り子が舞台で美しく舞っているようだ。
だが、それは人間たちにとって恐ろしい獣にしか見えなかっただろう。
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白い渦は低い唸りを立てて世界を飲み込んでいき、躊躇なく人間たちが生きる空間を削り取っていった。
追い込まれた人間たちのプライドは無残にも切り刻まれた。
大切に熟成させてきた哲学も高尚な倫理も引きちぎられた。
愛や憎しみも、善や悪も、快楽も苛立ちも溶けて蒸発した。
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私は叫び声を上げながら、容赦なく世界にあるものを破壊していった。
私は歪んだ世界や人間たちが消えていくごとに満たされた気持ちが高まっていった。
最後にひとり残った人間が私に吸い込まれまいと抵抗していた。
いや、その人間はこの私の強大な光の渦に触れても微動だにしなかったのだ。
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「お前は何者だ」
私はその人間を睨みつけて大声で尋ねた。
その人間は長い髪を美しく風にたなびかせながら私を見上げていた。
この状況にあっても、その顔は微笑んでいるようにも見えた。
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「私は真実だ」
人間は私に答えた。
答えたと言っても、私の心の中に直接その言葉が響いた。
人間は口を閉じたまま私を見つめて微笑んでいた。
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