かみむすび(14)古い友人
古い友人が訪ねて来たことがあった。
私は友人を思い出せず、記憶の奥の暗闇まで降りていかなければならなかった。
それでも、古い友人はまるで昨日あったような気さくさで私に微笑みかけた。
私はただ苦笑いを返すだけだった。
新しい友人たちは私を愉快にさせる。
たまに困らせたりもするが、それも親しい友人だからだ。
私の記憶はそんな新しい友人たちとの暮らしで満たされていた。
その古い友人との思い出は何もよみがえって来なかった。
古い友人は私の家に上がると目の前に座って、私が差し出した酒のグラスを手にとった。
そして、黙っていたずらっぽい目で私を見ながらグラスを傾けた。
まだ思い出せないのかなと言いたげな眼差しだ。
ああ、やっと思い出した、それは本当に昔のことだった。
この宇宙が生まれたときに私たちは一緒だったのだ。
私たちはいつかまた会おうと言って暗闇の中で別れた。
古い友人はそれを忘れずにいてくれた。
友人はまたひとつになる時が来たことを、私に告げるために会いに来たのだ。
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