かみむすび(11)丸い鉤爪
鋭く研ぎ澄まされていた俺の鉤爪は摩耗して丸くなった。
その爪はもう何も傷つけることができない。
荒々しかった俺は穏やかな心になり、それを神々は褒めてくれた。
俺の鉤爪ではどんな壁も登れなくなった。
俺の心は麻痺したようにいつも居眠りをするようになった。
羊の群れに中にいて誰かが何かを決めてくれるのを待った。
誰も俺を恐れていなかったので、大勢の仲間と笑ったり泣いたりした。
群れから離れると誰かに怒られたので、いつも仲間たちとくっついていた。
春のある晴れた日の午後、俺は居眠りが過ぎて仲間たちとはぐれてしまった。
ひとりになったとき、丸くなった自分の鉤爪を見た。
俺はなぜか無性に腹が立ってきて、一心不乱にその鉤爪を研ぎ始めた。
俺はライオンだったのに、羊になったつもりでいたのだ。
鉤爪の鋭さは仲間を恐れさせるだろう。
羊たちはライオンを非難して、仲間にはしないだろう。
ライオンになったら、ひとりで行くしかないのだ。
俺は鋭い鉤爪を壁に食い込ませて登るしかない。
0コメント