かみむすび(10)風の中
遅すぎる、速度を上げろと君は言った。
僕は君を横目で見た後に速度を上げた。
そんなものか、君は蔑むように僕を見て笑った。
そうさ、僕は臆病者でいい。
速度が遅いわけではない。
目の前に現れた雲はあっという間に後ろに置き去りにされる。
風の音が耳元で甲高い悲鳴をあげ続けている。
君は激しい風の中で涼しい顔をして前を見ている。
僕は腹の奥に力を込めると、さらに速度を上げた。
君はほうという驚いた顔をして僕を見た。
僕にもこれくらいの度胸はある。
そして、僕たちは風の壁を超えたのだ。
壁の向こうは完全に静止していた。
僕と君はひとつになって色を失った空に溶けてしまった。
僕は速度を緩めた。
僕たちは悲鳴を上げる風の中にいた。
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