超人ザオタル(95)若い僧侶

「あの、ザオタルさまでしょうか」

髪の長い若い男がそう話しかけてきた。

「ええ、そうです。ザオタルですが」

男は緊張しているようだが、落ち着いた素振りをしている。


「おひとりの時間を邪魔してしまって、申し訳ありません。

私はシュマと申すものです。

この町の寺院で僧をしています。

その、僧といっても、まだ使い走りでして」


シュマという男はそう言って、少し恥ずかしそうに笑った。

「あの、少しお話する時間を頂いてもいいでしょうか」

私に気を使っているのか、ずいぶんと丁寧な物腰だ。

「ええ、構いませんよ、シュマ殿。


どうぞこちらにお掛けなさい」

私は腰掛けていた岩の片方をあけて座り直した。

「ありがとうございます。それでは失礼して」

シュマは私の隣を確かめるようにしてゆっくりと座った。


「ザオタルさまは草原帰りと聞いておりますが」

シュマはそう言って話しを切り出した。

「ええ、いかにもそうですよ。シュマ殿」

私は穏やかな口調でそう答えた。


「そうですか。

あの、草原ではどのようなことを経験されたのでしょうか。

不躾にこんなことをお聞きするのは失礼だとは思ったのですが。

実は、寺院での格式張った教えに疲れてしまい。


本当にそれが真実なのか、分からなくなりまして。

もちろん、はじめは僧になったことを誇りに思っていましたし、

教えを学ぶことにも一所懸命に取り組みました。

ただ、その教えに納得していない自分に気づいてしまったのです。


それは誰かの教えであって、自分で体験したことではない。

それは立派な教えだとは思いますが、

自分で納得していないその言葉を暗記して信じたり、

ましてやそれを人に勧めたりすることに意味を見いだせなくなったのです。


ザオタルさまはご自身で草原に行き、

そこで直接何かを経験されたと聞き及んでいます。

私が求めているのは、そういうものではないかと思ったものですから」

シュマは言葉を選んで、落ち着いて話そうとしているのが分かった。


「わかりました、シュマ殿。

私が草原で体験したことは、自分が誰なのかという理解です。

そこで私は自分が存在だと知りました。

簡単に言うとそういうことです」


「なるほど、そういうことなのですね。

その存在とは善なるものなのでしょうか、ザオタルさま」

「いや、存在は善というものではありません、シュマ殿。

もちろん、悪でもありません。善悪を超えているものです」


空風瞑想

空風瞑想は真我実現の瞑想法です。瞑想を実践する中で、いままで気づかなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そうして「私は誰か」の答えを見つけ、そこを自分の拠り所にするとき、新しい視点で人生を見つめることができるようになります。