超人ザオタル(93)世界の狭間
私は存在だった。
この世界では真我とも呼ばれている。
その智慧が透明な波動となってアフラから発している。
それが全時空を満たしている。
アフラの身体が徐々に透き通って、
草原の景色の中に溶けていった。
それでも私はそこにいた。
この草原はアフラの身体となったのだ。
そこに踏み込んだ者はアフラに触れずにはいられない。
風に吹かれる草原の音さえ、真実を語っているようだ。
頭上には空があり、それが私から去ることはない。
そこで自我の牙城は力を失い、細かい砂粒になって崩れていく。
私はアフラの智慧の波動に同期して、波打っている。
自我は真実に触れ、歓喜とともに世界へと戻っていく。
私だけがそこに残っていた。
私は世界と真我の狭間にいた。
それは世界でも真我でもない。
同時に、それ真我であり世界だった。
このことは言葉では理解できないだろう。
だが、この私を明らかに知れば、言葉など必要ではない。
私ははっとして、目を開けた。
こちらの世界では、おそらく瞬きひとつくらいの時間だったのだろう。
ハルートが私を見つめていた。
その目は星空のように輝いていた。
「私も草原に行く必要がありそうです、ザオタルさま。
そこで言葉ではない真実に触れてきます。
そうでなければ、ザオタルさまと分かり合えない気がします。
私は真実についての言葉をたくさん知っています。
ザオタルさまからも多くの言葉を聞きました。
瞑想もしてきたので、そこでの静寂も存在も知っています。
ただ、それだけでは、まだ何か隔たりがあると感じるのです。
もう一歩踏み込まないと、それは理解し得ないもの。
真実を理解したとき、言葉は必要なくなり、
そして言葉は真実から世界に発せられるのでしょう」
ハルートはそう言うと、静かに微笑んだ。
「そうです、知識だけで真実を知ることはできない。
まったくその通りですよ、ハルート。
自分で直接理解しなければ、何も知らないに等しいのです。
草原に行きたいのなら、そうすべきです。
私はそこでハルートが来るのを待ちましょう」
翌朝早くにハルートは宿をあとにした。
私は部屋の窓からその後姿を見送った。
長い旅になるのか短い旅になるのか、
草原で何かを知り得るのか、それとも何もつかめないか、
それは分からない。
だが、ハルートならアフラのあの波動に気づくだろう。
幾重にも重なり、複雑に見えるこの世界。
知るべきは、その世界を支えるたったひとつの真実なのだ。
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