超人ザオタル(92)宇宙の流れ
人間というものは、この宇宙に比べて小さいものだ。
あまりにも小さく、はかない。
大宇宙にとって、この太陽さえ、砂漠の中の砂の一粒でしかなく、
ましてやひとりの人間など、目の隅にも映らないだろう。
さらに人間は八十年あまりしかこの世界に存在できない。
悠久の時を刻む宇宙にとっては、一瞬以下の時間だ。
そんな状況で、あの目覚めの波を受けることは稀なことなのだ。
だが、人間は自我という防波堤で、その機会さえ逃してしまう。
アフラの目覚めの波を受けるためには、
自我の壁を取り除かなければならない。
真我に目覚めることは、この瞬間に可能なのだ。
自我という家を出て、あの道を歩き、その垢を落とすのだ。
私は誰なのか。
これはアフラから発せられた目覚めのメッセージだ。
誰もがこのメッセージを受け取っている。
そして、真実の自分が誰なのか知ることができる。
いや、すでにそれは知っているのだ。
それを軽視し否定する自我の雑音を遠ざけ、
その真実を受け入れればいいだけだ。
私の中に言葉を超えた透明な理解が勢いよく流れ込んできた。
それは私を満たし、さらに外の世界へと流れ出ていった。
私のいる部屋を満たし、ハルートのをも飲み込んでいく。
その勢いは止まらず、部屋の窓から外へと流れ出る。
町を飲み込み、地球の大気に浸透し、宇宙の果へと広がる。
私はその流れに同化していた。
唐突に流れが止まり、私は完全に静止した。
そこでわずかも動くことができず、それでいて心地よかった。
時間は経過せず、空間さえなかった。
いや、そこには時間そのものがないのだ。
完全に静止しているとはそういうことだ。
空間という概念もなくなり、そこが広いのか狭いのか分からなかった。
ここは宇宙が始まった地点だ。
ただ意識だけが目覚めていた。
自分の姿かたちはなく、他に誰もいなかった。
無機質で僅かな生命の気配さえない。
すぐ背後には底知れない虚空があった。
そこに意識はなく、深い眠りのようだった。
だが、私は紛れもなく虚空として目覚めていた。
私は、私は誰なのだ。
静止していたそれがそう叫んだ。
その瞬間、何かが膨らみ、空間を形成していった。
物事が動き始め、そこで時間が刻まれ始めた。
虚空は振動し、熱を帯びた。
そして、音もなく凄まじい光を吐き出したのだ。
ふと気づくと、私はアフラに戻っていた。
そこで人間として大地に立ち、黙って地平線を見ている。
私は宇宙の小さな存在として在るが、
同時に、その宇宙をこの内に宿していたのだ。
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