超人ザオタル(91)はじめに目覚めた者
ハルートは私の話を黙って聞いていた。
ふと、ハルートは誰なのだろうかと思った。
私は誰に話をしているのだろうか。
何のために言葉を発しているのだろう。
真我は黙して語らずとも、世界はこの道を語るのだ。
人知を超えた知性が私を通して語っている。
ハルートはアルマティの娘ではなく、真我として在る。
私も真我として在る。
真我は世界を通して真我と向き合うのだ。
私は誰だろうか。
もし真我だけの状態であれば、この答えは見つからない。
そこには真我だけしか存在せず、答えを知る者は誰も居ないのだ。
答えを知るために、真我は世界にその身体を与えた。
世界は真我に答えを与えるために存在している。
そして、世界は真我に答えを与えたのだ。
真我の知性は問う、私は誰か。
私はそれに答える、あなたは私ですと。
その答えは真我に与えられ、全世界に広がった。
静まった夜更けの部屋に風が吹いた。
草の青い匂いがする。
何かに引き込まれる気がして目を閉じた。
私はすべての感覚が閉ざされて、静謐の中に落ちていった。
いったい自分がどこにいるのかも分からない。
それに抗うことなく、流れに任せた。
気づくと、私は白い服を着て草原に裸足で立っていた。
太陽が地平線から昇ってくるのを見ていた。
その光が眩しくて目を細めた。
風が私の服を揺らし、長い黒髪を巻き上げる。
私はザオタルではなかった。
私は誰なのか。
遥か昔に存在した人物のようだが、私の記憶にはない。
しかし、いま私は確かにその人物として地平線を見ていた。
(いま、始まったのだ)
心のなかでそんな声を感じた。
(我はこの世界ではじめて真我を知った者アフラ)
私の疑問に答えるようにそう聞こえた。
いま私はアフラという人物なのか。
何かが一瞬のうちに全世界に伝わった。
生気のない泥のような心に光が射し、真実が明らかにされた。
そこで私は死んで、いまここで生まれたのだ。
いや、いま生まれたのではなく、ずっとそこに息づいていた。
大きな湖の静かな湖面に広がっていく波紋のように、
その目覚めが時空を超えて広がっていく。
この瞬間に、すべての人類が目覚めるのを感じた。
アフラたったひとりが目覚めたわけではない。
その存在の知性はひとつしかないため、
そこでの目覚めはすべての目覚めになるのだ。
だが、どうしてあのときザオタルの私は目覚めてなかったのか。
なぜ本当の自分を知るための旅が必要だったのか。
それは時間と空間の抵抗のためだ。
この世界の構造がその一瞬を何万年も遅延させてしまう。
さらにその時間差によって、人は自我を形成し、それを自分とする。
目覚めの波を受ける前に、それを押し返す防波堤を築いてしまう。
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