神の声 第4章:星空の伝承(14)
師は私に言った。
本当の自分を見つけるためには瞑想しなければならない。
瞑想こそ、人間に与えられた最高の能力なのだ。
それは心の中のある一点を鋭い槍のように貫いていく。
そこから、いままでの堂々巡りは変わる。
そして、そこにひとつの道筋を見つけるだろう。
その道筋こそが本当の自分につながっているのだ。
師はそう簡単に言うが、それは簡単なことではない。
心の奥は暗闇に閉ざされていて、恐ろしい姿の魔物が住んでいる。
その魔物の住処に立ち入ったときには、
正気を保たなければならない。
魔物は恐ろしい姿をしているだけではない。
その人の罪悪感や悲しみ、怒りなどを利用し、
それを突きつけて、
侵入する者をそこから追い出そうとする。
そこに立ち入ろうと試みる者は、
大抵それで正気を失いそうになり、慌てて逃げ出す。
そして、こんな場所に立ち入ることは、
危険極まりないと感じて、
二度と近づかないようにする。
だが、本当の自分への道はここにしかない。
真実を知るためには、
この魔物の住む場所を通っていかなければならないのだ。
その先に、本当の自分が待っている。
私はこの場所に果敢に挑んでいった。
そして、何度も打ち負かされた。
いつも真っ黒い毒のような思考や感情に叩きのめされる。
もう、この場所に来るのは止めようと幾度となく思った。
だが、自分への道を探していると、
必ずこの場所に導かれてしまう。
他の道などないのだ。
私は何度でも魔物たちに立ち向かわなければならなかった。
その暗闇に入れば、
魔物たちは恐ろしい姿で、私を攻撃してくる。
私の罪悪感や恐れ、悲しみ、怒りなどを私に突きつけて、
ここに来るなと脅してくる。
どれだけ勇気のある者でさえ、
この魔物たちに叩きのめされて、
二度とここに近寄ろうとは思わなくなる。
そして自分への道を諦める。
どうしても敵わない魔物たちと戦うことに疲れ果て、
私もさすがにもう止めようとか思ったとき、
偶然、魔物たちの弱点を知った。
魔物たちはこちらが強くなればなるほど、
それを超えて強くなる。
それで、私は魔物たちと戦うことを止めてみたのだ。
私の抵抗する力をゼロにした。
そうすると魔物たちはたちまち力を失って、
苦しげな表情をして消えてしまった。
私は魔物たちが消えた向こうの暗闇を目指して進んでいった。
そこはいままでの暗闇よりもさらに暗く静かな空間だった。
空間は果てしなく広がっていて、澄んだ気を湛えている。
だが、そこには何もない。
苦労してここまで来たのに、
そこには暗闇があるだけで、他に何もなかった。
以前、心の中を探ったときとそれほど変わらない場所だ。
魔物たちがあれだけ必死に守っていたものは何だったのか。
私は呆然とした気持ちで何もない空間に目を凝らした。
どれだけ見つめても、そこには暗闇と静寂しかない。
それはそれで平穏な気持ちにもなれ、
何かから守られている感じはした。
ただ、それは世界から受けるそれと同じようなものだ。
私はここに本当の自分を見つけに来たのだ。
だが、それは見事に裏切られた。
私は落胆してそこを出ていった。
いつもの世界に戻ると、そこは光り輝いていた。
光の世界は私を再び魅了した。
やはり、世界は美しく、心地良い。
私はここで生きていくことに価値があると思えた。
もちろん、私はそう簡単に諦めたわけではない。
何度もあの暗闇に行っては自分を見つけようとした。
その度にここには何もないと、私は確かめるしかなかった。
それでも、もしかすると何か見落としがあるかもしれないと、
そう思い直す度に、幾度となくその空間を訪ねた。
そこはどれだけ目を凝らしても何もなかった。
相変わらず何も存在しない虚空の世界だ。
私は訳が分からなくなった。
何かがあるはずなのだが、それが見つからない。
だが、ある時、私はこの暗闇にある存在を偶然見つけた。
それはここが何もない世界だと知っている自分だ。
ここには何もなかったが、自分だけはそこにいたのだ。
この何もない暗闇と静寂は、
そんな私自身を見つけるための場所だったのだ。
世界は私を魅了する色彩にあふれていて、
どうしてもそこに目を向けてしまう。
ここには何もないから、そこに私がいると分かる。
そうひらめいた時、私の古い記憶が解放され、
ここが生まれ故郷だったと思い出した。
ただ、そう分かっても、
私はここにずっといることができなかった。
自分はここに居ると分かっていても、
また光に満ちた世界に引き戻された。
そして、いつものように私の人間的な人生に戻っていった。
光の世界の戻れば、私はあの暗闇の自分を見失っている。
ここでは、私はひとりの人間だという感覚に支配された。
私は本当の自分を取り戻すために、
何度も瞑想をして、暗闇の向こうに出向いた。
そこで何度も自分を確かめた。
私はいったい誰なのか。
光の世界に生きる自分なのか、
それとも闇の世界にいる自分なのか。
私はどちらの自分を信用すれば良いのか分からなくなった。
いや、私は光の世界の自分を信用したかった。
それはとても華やかで、生命に溢れていた。
闇の世界の自分は、何の動きもなく、まるで死んでいるようだ。
それを自分とすることは抵抗があった。
私はようやく見つけた闇の世界の自分に失望していた。
それを本当の自分にしたくはなかった。
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