超人ザオタル(83)求める者
私は真実への道を歩んでしまった。
それで草原に行って自分の真実を理解したが、
明日の寝食にも困る有様だ。
この世界では褒められたことではない。
町には夜の帳が降ろされ、小さな窓明かりが灯される。
平和で静かな夜。
ここで私の真実など、どれだけの意味を持つというのだろうか。
実際にこの世界では何の役にも立たないのだ。
自分が誰なのかという真実は世界のものではない。
だから世界の役に立つものであってはならない。
だが、私はこうして世界で生きている。
それが悲しいというわけでも罪悪感を持っているわけでもない。
役立たずではあるが、私はいつも真実を携えているのだ。
私の真実を世界の役に立たせようとすれば、
それはきっと真実ではない何かに変容してしまうだろう。
人々はそれが何かの役に立つのではないかと期待する。
だが、真実には動きがなく、ただ静かに存在するだけだ。
そんな姿に、きっと人々は早々に見切りをつけるだろう。
何しろ世界で役に立つことは他にたくさんあるのだ。
普通に心配なく生きるための優れた手段を見つけようとする。
私はこの世界で真実を伝えるべきなのか。
いまここでアジタでさえ振り向かせることはできなかった。
普通を生きる人々にとって、真実は異物でしかない。
私も世界の異物なのだ。
ただ無害であれば、無視していることもできる。
そうであるなら、真実を伝える意味などないかもしれない。
それを伝えようとすることが、人々の期待を裏切っているのだ。
それならば、私はなぜ真実を知ろうと思ったのか。
私も普通の平和な生活を望んでいた。
それを捨てさせたのは、世界の意志としか考えられない。
世界が私にそうさせた。
ミスラのあの強い意志を通じて。
世界に生きる人々は真実を望んでいないが、
世界は人々に真実を望んでいる。
そこへの道を常に用意している。
だが、道を歩まなければ、それは景色でしかない。
真実を受け入れるための精神が成熟して、
道を歩もうとする意思を待たなければならないのだ。
それなら、なぜ私はここにいるのか。
無駄に真実を伝えることをしているのか。
それも世界の意思だ。
ここでは世界の意思に従うしかない。
それで真実が失われることもないのだ。
私は世界を信頼しなければならない。
部屋の扉がノックされる音にハッとした。
「ザオタルさま、まだ起きてらっしゃいますか」
扉越しにハルートの声がした。
私は真実を求める者が少なからずいるのを思い出した。
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