超人ザオタル(82)反旗の喪失

この瞑想で起こったことは幻だったのだろうか。

私の願望がそうさせたのか。

アジタはもう草原には行かないだろう。

僅かな枯れ草のような経験を握りしめて、それで満足なのだ。


手に入れたときには朝露にいきいきと輝く美しい花も、

大地から切り取って手にしているうちに枯れていく。

干からびた花は生命を失ったというのに、

そのかつての姿を美しい記憶として大事に保管する。


真実というものは過去になるものではない。

いまこの瞬間にも起こり続けていることなのだ。

「それがアジタ殿の道であるなら、尊重しなければなりません。

話しかけてくださったことに感謝いたします」


私はそう言って、微笑みながらアジタに一礼をした。

「いやいや、こちらこそ貴重なお話を聞かせていただきました。

またいつかお会いしましょう、ザオタル殿」

アジタも微笑んで私に一礼をし、ゆっくりと席を立った。


食堂にいた人々も我々の周りから去っていった。

それぞれの向かうべきところへ。

ふとハルートの姿を探したが、ここにはいなかった。

私も立ち上がると、自分の部屋へと戻った。


部屋は夕闇に沈んでいて、ぼんやりと暖色のランプが灯っていた。

私は椅子に座って一息ついた。

真実を語ることは、なんとも疲れることだ。

窓からは暮れていく町の景色が一望できた。


静かに何事もなかったように一日が終わる。

何事もないこの毎日こそ、人々が求めているものかもしれない。

普通に生きていけることで満たされている。

それに反旗を翻すことなど考えてもいけない。


それでも意に反することは起こるだろう。

そして普通の日々を失ったことを嘆く。

あの幸せな日々を取り戻したいと願う。

そのために神に祈りを捧げ、哲学を学ぶのだ。


一体何を望んでいるかによって、その人の道は決まる。

普通を望んでいる人々にとっては真実などどうでもいいことだ。

真実など知ってどうする。

それを知ろうとすれば、普通の人生が壊れてしまうかもしれない。


余計なことに手を突っ込む必要はない。

毎日の仕事をこなして、美味しいものを食べ、

楽しく笑い、安心して寝床につく。

それでいいではないかと思うのだ。


私はそれを否定するつもりはない。

そう生きたければそうすることだ。

真実の探究などに、無理やり引き込むこともない。

アジタのように引き際というものもある。


空風瞑想

空風瞑想は真我実現の瞑想法です。瞑想を実践する中で、いままで気づかなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そうして「私は誰か」の答えを見つけ、そこを自分の拠り所にするとき、新しい視点で人生を見つめることができるようになります。