超人ザオタル(81)拒絶の壁
「ザオタル殿、この瞑想に何か意味があるのでしょうか。
時間にして、…確か十分ほどですかな。
その間、私はただ静寂の中におりました。
それはいいものだと知っています。
何もなく、誰もいない。
静寂だけがある。
それが私の本質であると知っています。
ええ、それはいつもの瞑想と変わりありません。
ザオタル殿が一緒に瞑想と言うからには、
何かそこにもっと深い意味があるのではないかと思いました。
しかしですな、いつもと変わらない瞑想でした」
アジタは釈然としないとでもいうような顔をした。
「アジタ殿。
まだそこには見落としているものがあります。
いずれにしても、まだ道は続いているのです。
アジタ殿が言うように、完成を目指すのであれば、
あの道を行くべきではないでしょうか。
いまはそれが完成しない道だということでも構いません。
再び草原行き、その見落としていたものを探すのです。
時間はかかるかもしれません。
それでも、それ以外にこの世界で、
アジタ殿が時間をかけるべきものなどあるでしょうか。
まだ一時の幸福をつかみたいでしょうか。
まだ満たされた夢の中に浸りたいでしょうか。
そうでないなら、失われることも色褪せることもない
本当の自分、自分の根源、その存在を見つける。
そうすべき時が来ています。
いつもと同じ瞑想なら、自らそこを超えていくことです。
超えるためには、何かを変えなければいけません。
自分の中に起こる気づきに導かれて。
僅かな光を見逃さないことです。
やり残しているのなら、もう一度そこに戻らなければ」
アジタを草原に戻さなければならない。
もし戻るなら、そこで真実を得るだろう。
アジタにはそれができるのだ。
「いやいや、ザオタル殿。
私は十分に草原を堪能しました。
もうそこに戻るつもりはありませんな。
瞑想での静寂の時間を持つだけで満足ですし、
そこにはいまも草原の静謐があふれているのです。
それ以上のことなど何もないでしょう。
私にはわかります。
ザオタル殿が言われる本当の自分、
存在ですか、それもあるかもしれません。
もしそれが分かったとしても、どうなのでしょう。
ただの自己満足にしかならないでしょうな。
むしろ、それは瞑想の静寂を乱すもの。
いうなれば、雑音みたいなものです。
それをわざわざ草原に戻って、
手に入れようとは思いません」
アジタはそう言って腕を組んだ。
親しげに微笑んではいるが、拒絶の壁が築かれていた。
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