超人ザオタル(75)瞑想の場
それが道なのです。
あの草原は、それを見つけるための気づきの場の役割を担っている。
それは心へと通じていて、根源への導きがあるということ。
時間をかけて錆びついた心の扉を開け、自分の真実を目の当たりにするまで」
その場がしんと静まり返っていた。
アジタは腕を組んで、黙ってうつむいている。
「ザオタル殿、何を言っているのか、さっぱり分かりませんな。
私たちが人間ではない…。
とても理解できないことです。
あなたも人間ではないと。
草原で何を経験されたのかは分かりませんがね、
あそこがそんな場所だとはとても思えません」
そこにいる誰もがアジタの言葉に黙って頷いていた。
私は周りの反応など気にならなかった。
「アジタ殿、瞑想をしたことはありますか」
もちろんある、とアジタは答えた。
「それではここで一緒に瞑想してみましょう。
いかがでしょうか」
「まあ、いいでしょう。お付き合いしますよ、ザオタル殿」
私はアジタが目を閉じるのを確認して瞑想に入っていった。
私は精妙な意識になり、心の奥深くへと沈んでいった。
特段の何かを意図して瞑想を始めたわけではない。
アジタと同じ場所を共有できるなら、
こういった言葉の説明を超えられるかもしれないと思っただけだ。
この試みは失敗するかもしれない。
アジタにはどうしても超えられない高い壁があるのだ。
一緒に瞑想する程度では、何も変わらないだろう。
それでも言葉のやり取りを続けているよりはましかもしれない。
私は柔らかな風に優しく運ばれるように暗闇の底へと降りていった。
次第にあたりがぼんやりと明るくなってきた。
くもりガラスを透かしてどこかの景色を見ているようだ。
硬い地面に足が触れて、そこで下降は止まった。
私はそこにゆっくりと腰を下ろした。
風が優しく身体に触れるのを感じる。
草の擦れる音がする。
懐かしさが心に込み上げてくる。
視界から曇りが取れて、あの景色がはっきりと目の前に映し出された。
草原の岩山だ。
私は岩山の上に座って草原を見下ろしていた。
隣にはアジタが座っていた。
「ようやくお会いできましたな、ザオタル殿」
アジタは私の方に身体を向けて胸に手を当てた。
まるで昔からの友人に会ったような笑顔でいる。
見覚えのあるアジタよりも若く見えた。
「ええ、アジタ殿、ここで私を待っていたのでしょうか」
私はここでアジタと会ったことに戸惑いつつ尋ねた。
「はい、ここで待つようにあなたに言われたものですから。
ようやくたどり着くことができました」
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