神の声 第3章:大樹の精霊(16)最終話

 それから毎日、女は樹の下で瞑想を続けた。

 もはや、女と精霊の間に言葉は必要なかった。

 その沈黙の存在の中でひとつになっていたからだ。

 

 たくさんの探求者が精霊と女の話しを聞いて大樹の元を訪れた。

 毎日、そこで多くの人が大樹の教えを求めて瞑想をした。

 だが、すべての瞑想者が精霊の声を聴けたわけではない。

 自分の望む言葉を聞こうとする者は、精霊の言葉を聞き取ることができなかった。

 

 それでも、心ある者は自分の修行が足りないのだと瞑想に励んだ。

 ただ、望む言葉を得られなかったことに不満な者たちは、

 女や精霊の話は信頼できない怒りに燃えた。

 そして、あそこには人の心を惑わす魔物がいて、

 邪悪な教えを広めていると悪い噂を流した。

 

 ある日、大樹は火を付けられた。

 悪い噂を真に受けた者が邪悪な魔物を殺すのだと大樹に火を放ったのだ。

 数千年生きてきたとはいえ、大樹が木であることに変わりはない。

 たちまち火は大樹を覆い尽くし、赤々と燃え上がった。

 

 白い煙が激しく立ち上り、それが雲のように空を覆った。

 その煙で大地は太陽の光を失い、昼間でも夜のように暗くなった。

 赤々と燃え上がる大樹の姿を見て、人々は精霊が怒っていると恐れおののいた。

 目の前で数千年も大地を守ってきた大樹がここで尽きようとしているのだ。

 世界にどんな災厄が起こるのか分からない。

 火を付けた者も事の重大さに気づき、心を失って呆然と立ち尽くした。

 

 数日後、ついに大樹は燃え尽きた。

 そこには大樹の面影もない燃え残った黒い炭の山だけが残された。

 不思議なことに、他の森の木々は無事だった。

 大樹のあった場所だけが、寂しげに森の中でポッカリと穴が空いている。

 そして、そこに太陽の日差しが降り注ぐようになった。

 暗い森の中で、そこが陽だまりになって明るく輝いて見える。

 

 ある日、あの女がやって来て、

 陽だまりになった大樹の跡に座って瞑想を始めた。

 もう、あの精霊が語りかけてくることもない。

 それでも、女は大樹の下で精霊と瞑想したときのように静かに座り続けた。

 

 沈黙の時が流れた。

 女が瞑想から覚めたとき、ふと顔を上げて空を見た。

 そこには抜けるような雲ひとつない青空が広がっていた。

 女は黙っていつまでもそれを見つめ続けた。

 

 森はただ沈黙を保った。

 

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。