超人ザオタル(70)神の力
「神というか、ええ、彼はただの少年のようでしたが。
イサトが神だとは…、何とも言えません。
ところで、神とはどんな姿をしているのでしょう。
それが分からなければ、誰が神なのか見当もつきません」
私は困惑してそう言った。
「他にも誰かに会われたのですな、ザオタル殿。
うむ、神は輝く人間の姿をしているといわれていますが、
その実体は誰も知りません。
ただ、とても不思議な、その奇跡的を起こす力を持っていると。
それはあらゆる苦難から解放してくれる力とでもいいましょうか。
永遠なる至福の光を授けてくれもします。
そして、その光を授かった者は神の代理として世界で働くことになる。
つまり神と同じ超人的な力で人々から苦難を取り去り、
至福の光を与えるのです」
アジタは宙に目をやり、少し悦に入ったように話した。
「確かに、草原で他の人にも会いましたが、
そのような奇跡を起こす人ではなかったですね。
多分、私はそういった神には会っていないかと、そう思いますよ」
「そうですか。
もしやあなたが神の代理人になったのではと思いまして。
私の早合点で、失礼な話をしてしまいました」
アジタは少し残念そうに笑った。
「いやいや、私こそ期待に応えられるような話もなくて」
私は幾分申し訳無さそうに言った。
「とんでもない、同じ草原帰りの方にお会いできてよかった。
私はね、そこで神には会えませんでしたが、
それでも自分が変わった気がするのです、ザオタル殿
多分、草原の不思議なエネルギーに触れたせいでしょう。
なんというか、見えない神に強く守られている感じがするのですよ。
それで、物事に動じなくなって、落ち着いた心でいられる。
慈悲深くなったとさえ感じますよ。
自分がまったく変わってしまったと。
草原では誰にも会えませんでしたがね、
あそこの風や光、澄んだ空、草の香り、
そういったものに神が宿っている。
それに触れた私は確かに神に触れたのだと、
私はそう感じているのです。
この思いを人々にどう伝えたらいいのか。
そこに行かなければ分からないこともあるのでね。
どうやってこの素晴らしい経験を言葉にできるか。
結局は草原帰りの人間同士でないと、
分かり合えないことなのかもしれない。
ザオタル殿であれば、きっとこの気ちを分かっていただけるかと」
アジタは何かを求めるような目で私を見た。
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