神の声 第3章:大樹の精霊(10)
「偽りを切り裂く剣を持ち我が大地に立つ不動の覇者よ」
「私は新しい目が開かれた思いがします」
「私も貴方とともに瞑想をしようと思います」
「私の中の存在を知るために」
精霊はそう男に言った。
「夜の闇を切り裂く稲妻にして真実の探求者よ」
「偉大なる貴方が真実を知るとき」
「世界が歓喜する姿を見ることでしょう」
「存在という本当の自分自身と共にあることを」
「引き裂ける者は誰もいません」
男は精霊にそう答えた。
大樹の精霊と男が瞑想をすると、
森は静けさに満ち溢れた。
鳥は絶え間なくさえずり、
木の葉は風に揺られて鈴のような音を立てる。
その中にあっても、
存在の静寂は破られることはなかった。
それから、男のもとには、
何人かの人間たちが来るようになった。
そこで一緒に瞑想をしたり、話をしたりする。
大樹の精霊も共に瞑想をし、その話に耳を傾けた。
年月が過ぎて、
男は人間としての寿命を迎えて、あっけなく死んでしまった。
人間の寿命の短さに大樹は悲しみを感じた。
男は僅かな灰になり、大樹の根本に埋められた。
誰かがそこに小さな墓標をこしらえた。
だが、大樹の精霊はその男がいまでも生きている気がしている。
人間としては死んでしまったが、
存在としては死ぬことがないのだ。
そして、精霊はその存在を知っている。
いつでも瞑想して、自分の心の奥深くに向かえば、
存在は当たり前のようにいつでもそこにいる。
それが、あの男のような気がする。
そして、それが自分でもある。
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