超人ザオタル(67)自分とは誰か
「ハルート、いま知っていること、
アルマティから教えられたこと、
そういったことを教えてもらえないだろうか」
まず私はそう話を切り出した。
小さな部屋が瞑想の前よりも明るく感じた。
何かで満たされているが、それが何かは分からない。
エネルギーのようでもあり、それにしては静かだった。
だが、それはとても好意的な感じがした。
部屋の優しい明るさの中でハルートの瞳が黒く輝いていた。
その黒の向こうに無限の宇宙を感じた。
それは得体の知れない何かというよりは親しみがある。
見つけていると、そこに吸い込まれそうだ。
「私は自分が存在だと知っています。
それは母から教えられた瞑想によって分かりました。
その存在はいつでも私の中心にあって、変わることがありません。
それそのものとしているだけです、ザオタルさま」
ハルートは存在について知っているのだ。
「それでは、自分が個人ではないと知っていいるのだろうか」
話はいきなり核心部分へと触れてきた。
私は話を急かさないようにとひとつ息を吐いた。
「ええ、それは知っています。
私は存在であって、個人ではありません。
それでもハルートはこの世界にいます。
私ははルートとして生きています」
ハルートは存在いついてかなり深い理解があるようだ。
それでもどこかで止まってしまっている。
「存在とは誰なのか知っているのだろうか」
質問することが難しい話になってくる。
ハルートは黙って目を閉じた。
私は緩やかに時間が流れるのを感じた。
ハルートが微笑んでいる。
しばらくして目を開けた。
「こんな話を母以外とすることが出来るとは思いませんでした。
とても嬉しくなって。
自分が存在かどうかなど、
いまの街の人たちにはまったく興味が無いことなのです。
ザオタルさまの言葉に、つい母との話を思い出してしまいました。
母は存在について、無理に他の人に話す必要はないと。
どのみち、その時が来るまでは、誰も理解し得ない。
それまでは世界を尊重し、自分の内で理解に努めるように言っておりました」
そう嬉しそうに言ってから、真顔になって一息ついた。
「存在とは、私とは誰なのか。
私はそれを知らなければなりません。
私は誰なのでしょうか、ザオタルさま」
今度は私は黙った。
そんなことが私に説明できるのだろうか。
ハルートの期待に応えられるのか不安になった。
だが、その答えは私の中にあるのだ。
存在がその答えだ。
答えなのではあるが、それ自身は黙っている。
それをどう伝えればいいのか。
そもそも、それは伝えるべきものなのか。
「存在とは誰なのか」
私はそう言って、言葉に詰まった。
それは瞑想ではなく、
この世界で与えられる言葉でなければならない。
ハルートは自分が存在だと知っている。
そこまでの理解があれば、
私の言葉もハルートにとって意味のあるものになるだろう。
そして、それは私も理解しなければならないことだったのだ。
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