超人ザオタル(64)瞑想の声
「もしよかったら、ハルート、
アルマティ、いや、あなたの母君のことを聞かせてれないだろうか」
私は自分の置かれた状況を知りたかった。
それにはアルマティの話を聞けば何か分かるのではないかと思った。
「ええ、それはもちろん。
ぜひ、あなたにも聞いてほしいことがあります、ザオタルさま」
ハルートはそう言うと、ベッドの縁に腰掛けて目を閉じた。
そうして、はじめの言葉を選んでいるように見えた。
そのままハルートは黙っていた。
私は手近にあった椅子に座った。
そこで声をかけるわけにもいかず、黙って待った。
部屋の空気がどこか変わった気がした。
時間が止まってしまったような静けさに満たされていた。
ハルートは瞑想しているのだ。
その姿から目に見えぬ気のようなものが発せられている。
私も目を閉じた。
その途端、暗闇の渓谷のような激しい流れに飲み込まれた。
その流れは意識の深いところへと半ば強引に私を運んでいった。
そして唐突に静止した。
物音ひとつしない洞窟の中にいるようだった。
私は何が起きているのか分からず、呆然としていた。
しばらくすると、そこで誰かの存在をはっきりと感じた。
目には見えないが、それとひとつにつながったのだ。
「アルマティ、なのか」
私はそうつぶやいてみた。
「 そう呼ばれていたこともありました、ザオタル。
いまはアルマティではありませんが、
ここではそう呼んでいただいて構いません」
その声にとても懐かしい感じがした。
それはあのアルマティそのものだったのだ。
「事故で亡くなったと聞いたが」
私はそう尋ねたが、時空を超えた視点を感じた。
「そうです。そして私はザオタルになりました」
「そうか、あの岩山で私が落ちたとき」
「あの時、私はアルマティではなくザオタルになりました」
だがしかし、それは私ザオタルであったはず。
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