神の声 第3章:大樹の精霊(6)

「高貴なる空の光にして闇を支配する全能の尊者よ」

「生命自ら希望の光を覆ってしまうとは信じられないことです」

「生命たちがその本当の自分を知って」

「それを確かに認めて」

「自分の真実という希望の光を取り戻すことができるのでしょうか」

「そのとき、生命は心から悲しみや恐れを取り払うことができ」

「この世界の豊かさの中で幸福に生きられるようになるのでしょうか」

 精霊はそう男に尋ねた。


「豊かな輝ける知性の持ち主にしてこの星を守護する統治者よ」

「もし、生命がその秘密を自らの手で暴くのであれば」

「そこに希望の光が射し込むでしょう」


「ただ、そうなっても、悲しみや恐れを取り払えるわけではありません」

「世界の豊かさも幸福も手に入れることができません」

「こんな話をすると」

「ほとんどの生命たちは落胆するかもしれません」

「自分は真実を知ったのに、なぜ何の見返りもないのかと」

「きっとそう思うのです」


「本当の自分を知ることは」

「世界から何かの見返りを手に入れることではないのです」

「見返りなどあるはずもない」

「生命はただ自分の真実を知ったというだけです」

「それは新たに得るものではなく」

「すでに自分がそうであったと知ることに過ぎません」

「そのため、その事実を知っても何の変化も起こりません」

「何かを世界から得たわけではないですから」


「でも、生命は自分が存在だと知ることで」

「世界を見る視点が変わります」

「生命はいままでの身体や心という視点から離れて」

「自分のもっと奥深くにある存在という視点から」

「世界を見ることになります」


「このことをもっと正確に言うなら」

「いままでもその視点だったのですが」

「身体や心という視点が自分なのだと誤解していて」

「その誤解が解けて、元々の視点に気がついたということです」


「さて、生命それ自身が存在だということは」

「こういうことでもあります」

「存在はすべての現象の未発現の状態ですから」

「それが悲しみや恐れになることもあります」

「つまり、生命は悲しみや恐れ自身でもあるのです」


「そのため、生命は悲しみや恐れを取り払うことができるどころか」

「悲しみや恐れと密接な関係を持つことになります」

「もう、それを取り払ったり見て見ぬふりもできません」


「ですが、生命は悲しみや恐れ自身でありながらも」

「存在そのものでもあるのです」

「心の中の悲しみや恐れは現れたり消えたりしますが」

「存在はいつでも変わりなくそこにいます」

「それが生命自身の拠り所になっています」

「それは恐れでも悲しみではありません」


「生命はその存在を悲しみや恐れに発現させながらも」

「自分自身を悲しみや恐れに同化させることはなくなります」

「悲しみや恐れは存在が一時的に変化した姿であり」

「生命はその変化を自分の拠り所としていないからです」


「そうなれば」

「生命は悲しみや恐れがあっても良いという場所に立つことができます」

「どんな心の変化が自分に起こっても」

「自分の根幹は存在という処から変わることがありません」

「このことが、本当の自分を知ることで」

「生命自体に起こる理解です」


「もしかすると」

「それを永遠なる幸福や豊かさと言うことができるかもしれません」

「でも、それはこの世界のそれとはかなり違っているということです」

 男はそう精霊に答えた。


空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。