神の声 第2章:砂漠の行者(16)
光を感じて、私は目を開けた。
砂漠の夜が明けようとしている。
地平線を眺めていると、次第に空が白んできて、太陽が地平線から姿を現す。
私はただ無心でその美しい景色を見つめた。
太陽は見る間に空高くへと昇り、光が眩しく輝き出した。
私は我に返り、慌てて立ち上がると早足で歩き出した。
いつものように、私の身体は砂漠の太陽に激しく焼かれた。
今度こそもう駄目だと心が折れかけたとき、私はオアシスに辿り着いた。
気力を振り絞って池へと向かい、夢中で水を口に含んだ。
私は木陰で疲れ切った身体を横たえた。
そして、身体が落ち着いてきたのを見計らって、宮殿の部屋へと向かった。
すれ違う人々が笑顔で私に会釈をする。
いつもと変わらない光景だ。
部屋に入ると、女がソファーに座って待っていた。
「今日も砂漠からご帰還ね」
女は美しい笑顔で私を見た。
「ええ、今日もやっとの思いでオアシスに辿り着きました」
私はそう言いながらひとつ息を吐いて、女の隣りに座った。
「瞑想しているときも砂漠に飛んでいってしまうのかしら」
女は少し皮肉交じりにそう私に尋ねた。
「はい、瞑想していても砂漠に飛んでしまうようです」
「瞑想から目覚めたら、もう砂漠でしたから」
私はそう言って残念そうに笑った。
「それで瞑想はどうだたの」
女はそう言って私の目を見た。
「ええ、そうですね、瞑想のことはまだ良くわかりません」
「そんなに直ぐに分かるものではないようです」
「でも、自分が誰なのか、それは何となくですが分かってきました」
「すごく単純な話で、ただそれを知らなかっただけみたいなことで」
私はあまり得意にならないように気をつけて話した。
「そうなのね」
「それで、あなたが知りたいことが分かったら」
「ここにずっと住んでくれるのかしら」
「すっとこの調子だと、私も疲れるわ」
「もちろん、あなたもね」
女は少し憐れむような目で私を見た。
「ええ、私のような見知らぬ者に親切にしていただいて」
「本当に感謝してます」
「私もこのオアシスの宮殿で過ごしたいと思ってます」
「でも、それのためにも私が納得する答えを見つけなければ」
私はそう真顔で言った。
「そうでしょうとも」
「もちろん、ここではあなたの好きなようにして欲しいわ」
「ここはあなたがいるべき場所だから…」
「さて、あなたは今からここで瞑想するのね」
「あなたの納得する答えが見つかることを祈っているわ」
女はそう笑顔で言うと立ち上がって部屋を出ていった。
私はその後ろ姿を見送ると、ひとりで少しだけ食事を摂った。
それから風呂に入って身体の疲れを癒やした。
私はまたソファーに戻り、そこで目を閉じて瞑想に入った。
目を閉じていると、
私を捕まえようと宮殿の微かな音や匂いが私の感覚を誘う。
それをやり過ごすと、今度は取り留めのない考えやイメージが沸き起こり、
それが光の川のようになって暗闇の淵に流れて消えていった。
静寂と暗闇だけになった心の中で私は何かを見ていた。
それはまるで暗闇の夜空に星を探そうとしているようだった。
そこで何かを見ている者がいる。
これが本当の自分だ。
私は確かにここにいた。
それは確信に満ちていた。
私は目に見える存在ではないが、確かにここにいる。
無いけど在る、在るけど無い。
とても不思議だが、
私はひたすらそれに合わせて、その感覚に浸った。
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