超人ザオタル(47)朝の草原
朝の陽の光が部屋に差し込み、そこで私は目覚めた。
部屋を照らす光に眩しさを感じて目を細めた。
寝返りを打ってもう一度眠ろうとしたが、すでに目が冴えている。
そのまま横になってもいられずに起き上がった。
身体が動くままに身支度をすると、家の外に出た。
静かな草原が朝露に濡れてガラスを散りばめたように光っている。
私はその草原の中へと足を進めた。
清々しい空気を吸いながら、歩くごとに解放されていく気がした。
私は自分がどこに向かっているかおおよその見当はついていた。
あの岩山が見えてきた。
乱雑に一抱えもある大きな石が積み上がっている姿は美しいとは思えなかった。
だが、そこに不思議な愛着があった。
私は岩山の下に立ち、青黒くゴツゴツとした岩肌に触れてみた。
それはまだひんやりと夜の冷たさを宿している。
世界の時はゆっくりと流れ、私のそれは止まっていた。
岩山によじ登り、その上に立った。
爽やかな風が美しい草原の波となって舞っている。
草があるから風という見えないものも見えるのだ。
私は岩に座って、ただそんな美しい景色を眺め続けた。
その眺めている私は誰でもない、そこに在るだけ。
身体や心はひとつの現れなのだ。
この世界における仮の姿に過ぎない。
仮の姿だが、そこには現実感がある。
この世界を現実だと思えば、この身体や心もまた現実なのだ。
だが、瞑想の中ではこの世界の姿は消えてしまっている。
世界どころか、私の身体や心も消えているのだ。
身体と心が消えてしまうのは、そこがこの世界ではないからだ。
そこは身体や心を必要としない場所なのだ。
それでも私は存在できる。
その場所はとても原初的な領域だと分かる。
つまり、私自身も原初的な存在なのだ。
原初的な存在とは何だろうか。
それは人間ですらない。
魂なのか。
魂でもない。
そこには何の個別性もないのだ。
私はぼんやりと眺めている景色に何かが浮かんでくる感じがした。
瞑想の中でではなく、それをここで見つけなければならない。
私は目を凝らして景色を見たが、何も見つけられなかった。
いや、私はすでにそこに何かを見つけていたのだ。
目にしていながら、それに気づかずにいる。
それが何なのかつかめそうでつかめない。
私は身体に力が入っているのに気づいて、それを緩めた。
その瞬間、あの瞑想の感覚がよみがえってきた。
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