神の声 第1章:天使と悪魔(11)

「ああ、そうだ」

「まあ、とりあえず、ここは闇だな」

「見渡す限りの闇だ」

「この闇がどのくらいの大きさなのか」

「オレには分からねえ」

「分かっているのは」

「ここにだけオレたちが立てる地面があるってことだ」

「ここはいつもそんな感じだ」

「まあ、ここはそれ以上に特別な印象もねえな」

 悪魔はそう言って辺りを見回した。


「ここに人間たちを導くとか…」

「やっぱり無理がないか」

「ここは人を引きつける何もないぞ」

「オレだって、オマエが言った以上の印象しかない」

「それでここがあなたの思い出の場所ですとか言ってもなあ」

「ここの留まる理由がない」

 天使は眉間にシワを寄せて暗闇を見上げた。


「何だっけ、時間が止まっているとか」

「ひとつしかないとか」

「そんな理由でここが魅力的になるわけじゃねえしな」

「神はいったいオレたちにどうしろってんだ」

 悪魔は投げやりにそう言った。


「そうだな」

「ということは、オレたちがここを好きにならなければ」

「人間たちをここに導くこともできないということだ」

「神さまがそう言ったからとかいう理由だけでは」

「何というか、説得力がない」

「神さまは何とも難しい使命をオレたちに与えたな」

 天使も悪魔の言葉に頷いた。

 二人は腕組をして黙って周りを見回した。


 しばらくそうしていたが、何の考えも浮かばない様子だ。

 闇の中に水の滴る音がやけに大きく響いている。


「あ、あの、ちょっといいですかね」

 僕はこの場の雰囲気にたまりかねて声をかけた。


「何だ人間、何か言いたいことがあるのか」

 悪魔がそう言って僕をギョロッとした目で見た。

 天使も面倒くさそうな目で僕を見る。


「ええ、大したことじゃないかもしれませんが…」

「僕はここに来たときに」

「とても満たされた気持ちになりました」

「これって、何でなんでしょうね」

「とても不思議です」

「それが分かれば、この場所の意味も分かるんじゃないかと」

「いや、大したことじゃないですね、ホント」

「あの、忘れてください」

「すみません…」

 僕はそう言ってから、余計なことをしたと後悔した。


「ほう、なるほどな」

「人間はそんな気持ちになるんだな」

「オレは何の変わりもないが」

 天使はそう言って僕を見てから、


「オマエはどうなんだ」

 そう悪魔に聞いた。


「オレも何の変わりもねえな」

「満たされた気持ちって」

「それって何なんだ」

「あの世界よりも良いってことなのか」

 悪魔はそう言って見下すように僕を見た。


「ええ、あの、あなた方に見つかるまでのことですがね」

「僕の身体がこの暗闇に溶けて」

「自分がなくなるような気がしたんです」

「それで、とても満たされて」

「世界のそれとはちょっと違うような」

「空腹を満たすという感覚とはまた別で」

「もっと、何というか、ずっとそこに間違いなくある何か」

「それと同一化する感じです」

 僕はあの感覚を思い出しながら説明してみた。


「何をっているかさっぱり分からねえな」

 悪魔が呆れたような目で僕を見た。


「いやいや、ちょっと待て」

「そう無下にするな」

「何にでもヒントはあるもんだ」

 天使は少し興味深げな目をしている。


「多分ですが」

「そのあなたの身体の光が見えてから」

「満たされた感覚が消えて」

「また元に戻ってしまった気がします」

 僕は天使を見ながら曖昧な記憶でそう話した。


「なんだよ、オレのせいか」

「オレの何が悪かったんだ」

 天使は不機嫌そうな声で言った。

 悪魔がそれを聞いてへへっと笑った。


「あの、多分その光です」

「きっと光が何かの邪魔をしているんです」

 僕は思いつきでそう言った。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。