神の声 第1章:天使と悪魔(9)
「あのう、神さまの言っていることは」
「さっきオレたちが話してことですよ」
「ちょっと今まで遊びが過ぎましたが」
「これからそれをやろうと思ってたんです」
「なあ」
天使はそう言って悪魔に相槌を求めた。
「そうそう、そうなんですぜ」
悪魔もそう言って僕を見た。
「そんなことは分かっている」
「私がお前たちの話を知らないとでも思っているのか」
「私はお前たちより数歩先を行っている」
「そうお前たちに思いつかせたのも私だということだ」
「この人間をここに連れてきたのも私だ」
「ここから人間たちが新しい一歩を踏み出せるようにな」
僕はそう言うと小さくなっている二人を見た。
天使と悪魔が僕の前にいる光景はとても奇妙だった。
僕は何というか二人のことがとても好きになっていた。
「分かりました、神さま」
「オレたちの任務がはっきりとしました」
「で、確認なんですが」
「オレたちは何をすれば良いんでしょうか」
天使がちょっと困った目で僕を見た。
「オマエ、神さまの話しを聞いてなかったのかよ」
「ここに人間どもを連れてくるってのが」
「オレたちの任務じゃねえのか」
「それがオレたちのやることだぜ」
「そうですよね、神さま」
悪魔が勝ち誇った顔で僕を見た。
「まあ、そういうことだ」
「だがな、ここに人間を連れてくるのは簡単じゃないぞ」
「なにしろ、みんなリアルな世界に毒されている」
「お前たちも早くこんな暗闇から出て、世界に帰りたいだろう」
「世界が自分の生きている場所だと思っている」
「それは私がそうしてしまったから無理もない話だ」
「それに人間たちは暗闇を恐れている」
「闇を邪悪な何かだと思っているのだ」
「そして、光に溢れる世界こそ求めている場所だと思っている」
「だから、上手くここに引っ張り込めても」
「人間たちはそそくさと帰り支度を始めるだろう」
「恐ろしい魔物が現れる前に早く帰りたいと思う」
「そこでだ、その誤解を解かなければならん」
「お前たち、ここのことを人間たちにどう説明するつもりだ」
僕はそう言って二人からの答えを待った。
「そんな急に言われても…」
「何も思いつきません」
「それに、いい加減ここから出たいと思っているのは」
「本当のことです」
天使は申し訳なさそうに僕を見た。
「確かに、この暗闇からオレみたいのが現れたら」
「絶対に人間たちは誤解しますぜ」
悪魔が恐ろし顔をしかめて言った。
「そうだろ」
「ここを説明することは難しく」
「そして誤解を招きやすい」
「そこでだ」
「お前たちはここで議論をするんだ」
「ここは何なのか」
「それについての議論だ」
「もちろん、お前たちは答えなど知らなくていい」
「私も答えを与える気などない」
「そもそも簡単な答えは知的な人間たちを失望させるだけだ」
「分かってしまうと面白くないお化け屋敷みたいにな」
「未知のものに興味を持たせるということが大切だ」
「もちろん、何の興味も待たない人間もいるだろう」
「それはそれで仕方がない」
「興味をもたせるように矯正するのは私の主義じゃない」
「人間の自発性こそ、私が大切にしていることだ」
「だが、道を示すことはできる」
「それがお前たちの仕事だ」
「どうだ、分かったか」
僕は自信なさげな顔をしている二人を見た。
「神さまの言わんとするところは分かります」
「ただですね、ここがどんな場所なのか」
「ある程度は知らないと」
「オレたちも困ります」
「人間たちに突っ込まれたときに」
「答えようがないと…」
「オレたちはこの場所があることは知っていても」
「ここがどんな場所なのかはよく知らないんです」
天使は困った顔で僕を見た。
「オレもある程度知らねえと」
「オレがここに人間たちを連れてきたら」
「きっと騙されて地獄に落とされたと思いますぜ」
「そこで説明がしどろもどろだったら」
「絶対、人間はオレのことを邪悪な何かだと勘違いする」
「ここの秘密をちょっとだけ教えてくれませんかねぇ」
悪魔は媚びるような笑みで僕を見た。
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