神の声 第1章:天使と悪魔(8)
「やっぱり神はいたんだ」
天使が高い声で叫んだ。
「おいおい、ホントに神なのか」
「これは、これは驚いた」
「オレは今、神を見ているってのか」
悪魔もしわがれた声で叫んだ。
「おい、二人」
「ここは神聖な場所だ」
「そう大声を立てるな」
僕はそう言って二人をたしなめた。
二人は僕に怒られてシュンとした。
それを見て、僕はいけるかもしれないと思った。
「ところでだ」
「お前たちは神がいないと思っていたようだな」
「神がいないはずがないだろう」
「だいたい、自分が存在するということは」
「誰かが自分を創ったはずと思わなかったのか」
「大昔に私がお前たちを創ったが」
「そんなことも忘れてしまったようだな」
「それで神はいないけど、いることにしようとか」
「まったく呆れた話をしている」
「人間たちを導く仕事も」
「どうやら行き詰まっているみたいだな」
僕がそう言うと、
二人は何かを思い出したように「あっ」という表情になりますます小さくなった。
「申し訳ありません…」
「あなたのことはすっかり忘れてました」
天使が恐縮して言った。
「オレは神などいなくてもいいと言いました…」
「まったく穴があったら入りたいくらいです」
悪魔はうつむいて小さな声で言った。
黒い額に汗が吹き出している。
「まあ、これまでのことはいい」
「私はいつかお前たちがちゃんと仕事をするだろうと」
「辛抱強く待っていたが」
「人間たちを自滅させるとか、まったく」
「とんでもない方向に話が行き始めたから」
「こうしてここに出て来る羽目になった」
僕は自分の口から出てくる堂々とした言葉に驚いた。
これは僕が言っているわけじゃない。
「ところで、あの、神さまは」
「なんで人間の姿をしているんですか」
天使が僕を見ながらたずねた。
「私には姿がないんだから」
「こうして人間の姿を借りなければならんのだ」
「お前たちに会うにはこうするしか方法がない」
「そんなことはもうどうでもいいだろう」
「本題に入るぞ」
僕はそう言って天使を睨みつけた。
「お前たちの役割について」
「もう一度、確認をしておく」
「いいか、お前たちの役割は」
「この場所に人間たちを導くことだ」
「そして、この場所こそ」
「自分の原点だと思い出させるのだ」
「そのために、お前たちにこの場所を開放している」
「そのことをしっかり思い出せ」
「ここはお前たちが下手な密会をするためじゃない」
「まあ、いつでも私はここにいるから」
「密会にはならないがな」
僕はそう言うと二人を交互に見た。
「ああ、そういえば」
「思い出しました、神さま」
「そういうことじゃないかと思ってたんですよ」
「実はさっきもそんな話をしてたんです」
悪魔が困った顔で愛想笑いをする。
「うむ、ではちゃんと思い出すために」
「もう一度、この世界の話をする」
「まず、この世界は私の分身だ」
「覚えているか」
「私の分身がこの世界を創り動かしている」
「だが、往々にして分身は私のことを忘れてしまう」
「世界があまりにリアルだからな」
「すべて私の分身なのだから、それは当たり前のことだが…」
「それで、世界にだけ自分が生きていると思ってしまうのだ」
「私は世界を大切にしたい」
「だがな、分身たちが誤解したままでも心苦しい」
「だから分身たちが人間に進化して」
「そうなったときにこの洞窟の扉が開かれ」
「そこで真実を知ることができるようにした」
「そのときのために導き役としてお前たちがいる」
「お前たちはここに出入りできる特別な存在だ」
「だからだ、インターネットで遊んで」
「時間を潰すほどヒマじゃないはずだ」
「お前たちも人間たちと同様に」
「世界のリアルさに毒されてしまって」
「それで神から与えられた任務も忘れてしまったようだがな」
「まあ、それは私の責任でもある」
「この世界が誰でも夢中にさせるほどリアルなのは」
「私がそう創ったからだしな」
僕はそう言って二人の様子を眺めた。
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