神の声 第1章:天使と悪魔(5)
「おい、もしかして」
「インターネットが本当の神だってことはないか」
天使が思いつたように言った。
「何というか、そうやって人間たちがつながって」
「それが実際に神になっていくとか」
「オレたちの知らない所に神がいてだな」
「いい加減、オレたちに愛想が尽きて」
「神がインターネットを使って」
「直接、人間たちに手を伸ばし始めたとか」
「ということは、オレたちはお払い箱ってことだ」
「オレたちは何とかして人間たちに」
「神がいると信じ込ませようとしてきたけど」
「そんなことは無駄なことだってことになる」
「もしかするとだけどな」
天使は青い顔で悪魔を見た。
「おいおい、そんな考えは止めてくれ」
「オレたちがお払い箱だって」
「いやいや、まだ人間どもにはオレたちが必要だろ」
「そもそも、神なんていねえじゃねえか」
「それにだ、いくらインターネットが蔓延してるからって」
「人間どもは生身なんだぜ」
「オレたちの手助けがなくなったら」
「やっぱり人間どもは困るんじゃねえのか」
「困るはずだよな」
悪魔の黒い顔も青白く見える。
「なんとも言えないね」
「もしかすると、オレたちはこの世界で失敗して」
「すでに追放されたのかもしれん」
「もはや何の力もなくて」
「人間たちと同じレベルまで落ちてるとか」
「ところで、オマエ、ネットで買物とかしてないだろうな」
天使はキリッとした目で悪魔を見た。
「ネットで買物とか」
「してるに決まっているじゃねえか」
「あんなに便利なものはないぜ」
悪魔の額に汗が流れる。
「オマエ、そんなんでどうするんだよ」
「まあ、オレもたまに使ってしまうがな」
「まずネットでチェックしてと思うけど」
「なぜか操られるように」
「そのまま購入にまっしぐらだ」
「オレも相当やられている」
天使は苦笑いをした。
「じゃあ、オレたちも人間並みになっちまったってことか」
「もしかするとインターネットが神なんじゃねえかと思えてきたぜ」
悪魔はやれやれという顔で笑った。
「でもまあ、インターネットが神になることはないな」
「それはオレたちの代役を果たすかもしれないけど」
「神っていうのはそれを超えていると思うんだよな」
天使は真っ暗な天井を見上げた。
「なんだよ、オマエは神を信じてんのか」
「神っていうのはオレたちの権威付けのための」
「想像上の産物という設定じゃねえのか」
悪魔は驚いた顔をした。
「なんだよ、オマエは神を信じてなかったのか」
「オレは信じていたよ」
「だけどな、神を見たことがないからな」
「だから、神がいるって確信が持てない」
「人間たちにも、その説明が上手くできないんだ」
「だから、神がいるってことにしようと」
「オレの中では密かにそういうことにしている」
天使はちょっと恥ずかしげな顔をした。
「神を信じるとか」
「オマエも人間並みに落ちたもんだな」
「そんなんで人間どもに信じさせる強力な神なんか」
「思いつくわけがねえだろう」
「だいたい、初めっから神なんていねえのさ」
「だから、インターネットが神みたいに見えても仕方ねえ」
「人間どもがいくら待っても現れねえ神にしびれを切らして」
「それで、インターネットが現れたときに」
「オレたちを差し置いて、それを神に見立てちまう」
「オレたちも相当インターネットにやられている」
「だから、インターネットが神に見えるってことで」
「オレは納得しちまうがな」
「まあ、オレが人間並みに堕落しちまったか」
「それともインターネットがオレたちを飲み込んじまったのか」
「神がどうこうよりもな、オレたちの不甲斐なさが」
「こういう状況にしちまったってことだ」
「こうなったら、面倒だ、人間どもを自滅させて」
「もう一回初めからやり直さねえか」
悪魔は半ばやけくそ気味でそう言った。
「まあまあ、それは最後の最後の手段だ」
「40億年もかけて、ここまで来たんだ」
「もう少し何とかできないか考えてみよう」
「また、世界を一から創るのは骨が折れる」
天使は悪魔をなだめるように言った。
「それじゃあ、どうするってんだ」
「いくら考えても、いいアイディアなんか」
「出てこねえじゃねえか」
「神なんかいねえし」
「それならオレたちが神なるか」
「それともインターネットが神なるかだ」
悪魔は興奮気味にそう言った。
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