神の声 第1章:天使と悪魔(3)
「まあ、神は必要なんだろうが」
「それはすでにそうしてきて失敗したんじゃねえのか」
悪魔が天使をなだめるように言う。
「な、そこが問題なんだろう」
「人間どもは神に名前をつけて」
「それを独り占めしようとしたよな」
「その結果がどうなった」
「なんと戦いが起こったろ」
「オレたちもびっくりだぜ」
「おいおい、ちょっと待てよ」
「ふたりでそう言ったよな」
「神を与えたのに」
「人間どもはそれをネタに自滅の戦いを始めたんだぜ」
「それがどれだけ続いている」
「もう三千年だ」
「誰もこれを止められねえ」
「人間どもに神を与えたのは失敗だった」
「もし、ここからやり直すとするならだが」
「いままでの神の与え方が悪かったのかもしれねえ」
「今度はどうやって神を与えるか」
「そこがオレたちなりに賢くやるとこじゃねえのか」
悪魔はどうだという顔で天使を見た。
「おお、オマエ、いいこと言うなあ」
「オマエの言うことはもっともだ」
「そこなんだよ、問題はな」
「確かにな、オレたちは神の与え方がマズかったかもしれん」
「ただ神を与えれば良いと簡単に考えていたからな」
「あれでは人間たちも誤解するだろう」
「それで、どうする」
「今度はどうやって、人間たちに神を与える」
「今からでも間に合うだろう」
「ここからやり直しだ」
天使は悪魔の言葉に期待した。
「それだよ問題は」
「どうやって神を与えるか」
「それが分かれば苦労はしないってことよ…」
悪魔の言葉はさっきまでの勢いがない。
「なんだよ」
「分かんないのかよ…」
天使はがっかりして言った。
二人はそれっきり黙ってしまった。
洞窟の暗闇の中で沈黙が続いた。
「ホントに神がいてくれたらな」
「オレたちはこんなに苦労しなくて済むのにな」
天使がしょんぼりと言った。
「ああ、確かに」
「神がいたら問題なんてねえんだ…」
悪魔も力なくそうぼそっと言って黙った。
「だいたいな」
「オマエが神を語って人間にいろいろと与え過ぎるんだ」
「与え過ぎると人間たちはおかしくなる」
「それでオレが神を語ってそれを奪うと」
「人間たちはそれでもおかしくなる」
「オレに怒りをぶつけてくる」
「オレはは憎まれ役かよ」
「ちょっとはオレのやっていることも考えてくれ」
天使は腕を組んで悪魔を睨んだ。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ」
「人間どもがおかしくなるのはオレのせいだってのか」
「あれこれ神に求めたのは人間どもだぜ」
「それを与えるのが神の役目だろう」
「オレが望みを叶えてやったら」
「人間どもはあんなに喜んでたじゃねえか」
「おかしくなるのは人間どもに知恵がないせいで」
「オレの責任じゃねえよ」
「勘弁してくれ」
悪魔はそう言うと呆れた目で天使を見た。
「それにも限度ってものがあるだろう」
「世界を見てみろ」
「どれだけ物が溢れてるんだ」
「これはみんな神がやったことになっているんだぞ」
「物に埋もれて人間たちは自分を見失っている」
「みんなどれだけ沢山の物を手にするかに必死だ」
「それであちこちで戦いが起こっている」
「これは全部、神が自分に与えてくれた物だって言ってな」
「あれがオマエの責任じゃないっていうのか」
「それが目に余って、オレが人間たちから物を取り去ると」
「人間たちは恨むように悲しそうな目をするんだ」
「こっちまで辛くなる」
「でも、そうしないと人間たちがおかしくなる」
「だから、そこは辛抱して」
「そうするのが神の代行としての責任感ってもんだ」
天使はムキになって悪魔に反論した。
悪魔は物を与える神の役で、
天使は物を奪い去る神の役のようだ。
天使と悪魔の言い合いは、僕にとって嫌なものではなかった。
むしろ、暗闇の中に響く二人の声に心地よささえ感じた。
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