神の声 第1章:天使と悪魔(2)
「ああ、オマエはそういう風貌だからか」
「人間から神の敵役として見られている、昔からな」
「だから、つい神がいないほうが良いと考えるかもしれん」
「だかな、それはオマエの役柄であって」
「神がいるからこそ、その役の存在価値があるんだぞ」
「神に背いているということで」
「オマエはある一定の反抗的な人間たちの賛同を得てるんだ」
「それを忘れないようにしないとな」
天使はそう言って悪魔の目を見返した。
「うむ、確かにそうかもしれねえな…」
「やっぱり、神という存在はあった方が良いのか」
「だが、問題の根本は神がいないということじゃねえのか」
「オレたちがいくら神がいるように振る舞っても」
「人間どもはいつか気づくぜ」
「あいつらもなかなか頭が切れる時がある」
悪魔は口をへの字に曲げた。
「それでも神はいると言い続けるしかないだろう」
「神がいないと知られたら、すべてが崩壊するんだ」
「この世界は神がいるということで成り立っている」
「ある意味、オレたちがこの世界の最終防衛ラインだ」
「オマエ、事の重大さを本当に分かっているのか」
天使は呆れたような顔をした。
「そんなに大げさなことなのかね」
「大体、オレたちがやっている神の代行は」
「大したことじゃねえだろう」
「それを人間どもにオレたちがやっていたとバレても」
「やっぱりそういうことだったのかと」
「そう思われるだけじゃねえのか」
悪魔は適当に話しを切り上げたい素振りだ。
「オマエな、あまり人間たちを過信するな」
「人間たちは神がいないとなると」
「好き勝手なことをするようになるぞ」
「オマエがいくら怖い顔で凄んでも」
「神の後ろ盾がなければ」
「その無能さに気付かれてだな」
「軽く踏みにじられるようなる」
「それでだ、この世界の秩序ってものがおかしくなる」
「光と闇があって、それでそれを超越する神がいる」
「この世界はそういうことで成り立っているんだ」
「その秩序が崩壊したら…」
「人間たちが光と闇を好き勝手にして…」
「うへっ、考えただけでも吐き気がする」
天使の顔は青くなって、苦しそうに小さく震えた。
「人間どもの世界がそうなったらそうなったで良いじゃねえか」
「好き勝手にして自滅すればいい」
「そしたらオレたちはまた新しい世界を創ればいいんだ」
「オマエは何を恐れてんだ」
「あんまりビクビクしなさんな」
悪魔は憐れむような目で天使を見た。
「オマエはな、楽観的すぎるんだよ」
「そうやって失敗して」
「いつも、その後始末をするのはオレなんだぞ」
「オマエは、いったい何回世界を自滅させたか覚えているか」
「そこからまた世界を創るって」
「言うほど簡単じゃないんだ」
「ちょっとは学習しろよ」
天使は悪魔を睨みつけた。
「ああ、そういえば…」
「確かに何回か世界を自滅させちまったな」
「だがな、あれは全部俺の責任か」
「あれは人間どもの責任だぜ」
「あいつらは最後に神に救いを求めたが」
「オレに救いを求めちゃいねえ」
「それなのに、何でオレがそこまで世話しなければならねえんだ」
悪魔は腕を組んで天使を睨み返した。
「しょうがないだろう」
「人間たちは何も分からないんだ」
「オレたちが目を離せば」
「すぐに勝手な真似をして自滅しようとする」
「オマエ、人間たちが自滅して嬉しいのか」
「そんな無責任な神はどこにもいないぞ」
「もうちょっと彼らをマシな生命体にしたいだろう」
「だいたいだな、そうしなければ」
「この小面倒なオレたちのこの仕事は永遠に続くんだ」
「オマエはこの仕事をずっと続けたいのか」
「オレはいい加減、区切りをつけたいね」
「人間たちが愚かなままだと」
「こっちまでおかしくなる」
天使は呆れたような目で悪魔を見た。
「うむ、そう言われるとそうかもしれねえ」
「オレもそろそろこの風貌に飽きてきたしな」
「まあ、人間どもが勝手に創り出した姿なんだが」
「そういうのもムカつくと言えばムカつく」
悪魔が天使の話に同調してきた。
「そうだろう、そうだろう」
「それでだな、この世界をまともにするためには」
「やはり神が必要だ」
「人間たちは神の言うことなら素直に聞くからな」
「そこで学ばせなければならん」
「それしか方法はない」
「神は必要なんだ」
天使はちょっと顔を紅潮させて興奮気味にそう言った。
0コメント