青の記憶(14)運命
「青~、来たぞ~」
アンスロポスはそう言うと、
いつものように椅子にドカッと座った。
「ああ、いらっしゃい、アンスロポスさん」
青は笑顔で出迎えた。
星は何かを待つように静まり返っている。
「ところでだ、青」
「人生を自分の思い通りにすることなんかできるのか」
アンスロポスは困惑している目で青を見た。
「人生を自分の思い通りにすることはできませんよ」
「そんなことできるわけないじゃありませんか」
青はそうきっぱりと言った。
「じゃあ、オレたちは何で頑張っているんだ」
「それは人生を自分の望む姿に変えたいからじゃないのか」
「それは無駄なことなのか」
アンスロポスは分からないという顔で青を見た。
「人生で頑張るのは頑張りたいからです」
「それは無駄なこととかではなく」
「頑張るということがその人の決められた運命なんです」
青はそう言ってアンスロポスを見た。
「運命だから頑張るのか」
「じゃあ、人生を思い通りにしたいと思うことも」
「それも運命なのか」
アンスロポスはまだ腑に落ちないようだ。
「そういうことですね」
「だから、人生を思い通りにしょうと思うことは」
「別に悪いことじゃあありません」
「それが運命ですから」
青はアンスロポスの様子をうかがった。
星が少しざわついている。
「ふむ、じゃあ、運命ってなんだ」
アンスロポスはまだ引かない。
「運命とはその人の既に決まっている物語です」
「それを変えることはできません」
「一冊の本のように、それは完結しています」
「ただ、物語の先を読むことはできません」
「その人は今のページの物語を進めていくだけです」
青は静かにそう言った。
「人生は本みたいなものか」
「先が読めないなら」
「本人にとっては決まってないようなものだな」
「だから、頑張りたければ」
「頑張れば良いのか」
アンスロポスは少し分かった気がした。
「その通りですね」
「人生を思い通りにしようとしたり」
「運命を変えようとしても良いということです」
「ただ、人生は運命として既に決まっているという事実はあります」
青はそう言ってアンスロポスを見た。
「じゃあ、何か決まってないことはあるのか」
アンスロポスは青を見て言った。
「決まってないことはありません」
「ただ、自分が誰かを知ることは運命を超えることになります」
「もちろん、自分を知ることも運命に従うしかありませんが…」
「もし、本当の自分が誰かを知ったなら」
「この運命がどうあろうとも」
「それで自分が変わることはなくなります」
「自分が誰かを運命任せにする必要はなくなるんです」
青は穏やかにアンスロポスを見た。
「ほう、なるほどな」
「じゃあ、本当の自分を知れば」
「どんな運命であっても自由ということだな」
「だから運命を思い通りに変えようとする必要さえない」
「青、そういうことか」
今日のアンスロポスは素直に見える。
「そういうことです」
「今日はなかなか理解が早いですね」
「本当の自分を知ったなら」
「自分の望むように人生を生きれば良いんです」
「ただ、運命は変えられないし」
「本当の自分はそれでいいと知っています」
青は笑顔でそう言った。
「だから、自分を知ることは大事なのか」
「ふむむ…」
「まあ、今日はこのくらいにしておくか」
そう言って、アンスロポスは部屋を出ていった。
星はすぐに騒がしくなったが、
それは歌のようにも聞こえた。
青は少し優しい気持ちになった。
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