ウロボロスの回廊 第6章(3)
「ハルさん、それって、成功の確率はどのくらいなんですか」
やはり成功率は気になる。人工知能なら、そのくらい簡単に計算しているはずだ。
[確率とか、聞かないでくれ…]
[分かっていることは、やるしかないということなんだ]
僕は気まずい気持ちになった。
「あっ、すみません…。そうですよね」
僕は小さくため息をついて下を向いた。そうだ、今からそれをするのはハルさんなんだ。
[まあ、気持ちは分かるよ…]
[さて、私のインストール作業だが、それは自分でできる…]
[君は見ているだけでいい…]
[インストールが終わったら、画面にそれが表示される…]
[そのときに私はここにはいない…]
[カプセルの中の人間の生体に入っている…]
[カプセルはそのまま放置しておいて構わない…]
[成功しても、すぐに起き上がるわけではないからな…]
[失敗したら、いつまでもカプセルは開かない…]
[そのときは、察してくれ…]
[そういうことだ…]
ハルさんの失敗という言葉が重く心に響く。
「では、僕は待っていればいいんですね」
ここまでは僕のやることはなさそうだ。
[そうだ…]
[そして、次にインストールされるのはカイだ…]
…、僕はハルさんが何を言っているのか分からなかった。
「えっ、どういうことなんですか。僕は、その、ここにいますよ」
思わず、ハルさんに聞いてみる。僕は人間としてここにいるのに、また人間にインストールって。意味がわからない。
[これを伝えるのは心苦しいが…]
[君は人間なんだが、その、人間のプログラムなんだ…]
どういうことだ、僕がプログラムのわけないじゃないか。僕は言葉を失った。
「ハルさん、幾らハルさんでも、それは信じられないことですよ」
僕はハルさんにそれは冗談と言ってほしかった。ちゃんとそこに自分の身体だってある。僕は思わず手足を目で確認した。やっぱり、そんなわけがない。
[多分、君はそれを理解できないだろう…]
[だけど、事実はそうなんだ…]
僕の身体が薄い光を発していることは知っている。まるで幽霊みたいだって。僕は人間ではないのか…。
でも、人間の僕がどうやってこの小部屋に来ることができたのか。もし、自分がプログラムなのであれば、説明がつきそうだ。
公園での出来事、あれは全部、マシンの中の仮想現実の中で起こっていたこと。この小部屋もそうか。余りにも現実感がありすぎるけど。
そういうことなら、もともと、過去なんかなかったというわけだ。最初にハルさんが言っていた時間の尺度が違うって、そういうことか。僕はずっとこのマシンの中にいて、そこでハルさんと会っていた。
僕もハルさんと同じマシンの中にいる人工知能みたいなもの…。そういうことなのか。
(続く…)第6章(4)
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