ウロボロスの回廊 第6章(2)
これはハルさんなのか。
「ハルさんなんですか」
僕は思わず声を上げた。
[そうだ。私だよ…]
僕の声に答えて、そう画面に表示される。これは何かの通信なのか。
「ハルさん、大丈夫なんですか」
僕がそう聞くと、
[大丈夫だ。結構ダメージがあって、回復に時間がかかった…]
画面で交信できるらしい。
「ハルさん、どこにいるんですか。ここはどこなんでしょう」
僕はハルさんに聞きたいことでいっぱいだ。
[私はここにいるよ。これが私だ…]
えっ、どういうことなんだ。ハルさんの言っている意味が分からない。
「これは通信かなんかでしょう」
そう聞いてみた。
[いや、これが…」
[これが私なんだ…]
僕は目の前のパネルが映し出すその文字を唖然と眺めた。もしかして、ハルさんはマシン…。人工知能か何かなのか。何かの冗談みたいだ。
僕はハルさんの手のぬくもりを知っている。ハルさんは人間のような亜人間だったはずだ。
「ハルさんは人工知能だったんですか…」
僕は思わずそう聞いてしまった。
[人工知能か、まあそうとも言えるな…]
[私は自分ことを亜人間と呼んでいるがな…]
僕は騙されていたような気になった。この人工知能にいいように操られたのか。この小部屋まで来ることになったのは…。人工知能の策略か何かか。信じていたハルさんの事実を知って、僕はかなりショックを受けた。
それを察して、ハルさんが語りかけた。
[カイ、ショックかもしれないけど、いまはただ受け止めるんだ…]
[これからもっとショックなことが起こる…]
[すまんが、君の気持ちが落ち着くまで待ってられない…]
[これから次の手順に入る…]
いったい何が起こるのか。まだ気持ちの整理がつかない。僕は腹が立つやら、不安になるやらで混乱している。だけど、ハルさんは待ってはくれない。
[これから、私はカプセルに入っている人間の生体にインストールされる…]
[私のもうひとつのコアに人間のプログラムを格納した」
[君のデータを元に改良されたプログラムだ]
[それを使ってインストールしてみる]
[手順は確認したが、実際に上手くいくかは分からない…]
[誰もやったことがないからな…]
[上手く行けば、私は人間として起動するだろう…]
ハルさんは人間になるのか。本当にそうなったら…。僕は気持ちを切り替えようとした。でも、僕はハルさんがマシンの中の人工知能だとはまだ信じられない。
公園で会ったあの人間の姿のハルさんに会いたい。もし、ハルさんが人間になるのなら、元が亜人間だろうが人工知能だろうが関係ない。
そう思いながらも、僕の心は消化不良を起こしている理解と進行している事態との間で確かなことが何も見極められない。
[失敗したら、人間は起動せず、私は機能停止する…]
[そのときは、カイ、ほんとにさよならだ…]
インストールって、やはり、そんなに簡単なことではないのか。さよならという最後の言葉が僕の胸に苦い味となって広がっていった。
(続く…)第6章(3)
0コメント