ウロボロスの回廊 第6章(1)
僕は薄暗い部屋の中で途方に暮れた。こんなところで、幽霊のように過ごすことになるのかと思うと、調子に乗って暗闇の中を落ちていったことが悔やまれた。
そこに行ってはいかん、という声は、このことに対する警告だったのか。今となっては戻る術も分からず、助けてくれる誰もいない。
ハルさんはきっと時間移動の中で壊れてしまった。きっとそうだ。闇の中に散ってしまったのはそのサインだろう。
ハルさんは感じるままに進めと言ったけど、何をしていいか分からなければどうしようもない。何の説明もなくこの世界に送り込まれて、一体何をすればいいというんだ。
僕は壁に背中をもたれかけて部屋の中を見回した。二つのカプセルには蓋がしてあって、中を見ることができない。
ハルさんの話から想像すると、ここには新しい人間が入っているのだろう。起動したと言っていたけど、カプセルには何の動きもなかった。起動に失敗したのか。そうなる可能性もあると言っていた。
壁のパネルの画面は真っ暗で何も映し出していない。多分、電源も入っていないのだろう。
生体起動のプログラムが駄目だったのか。これで人類の存続は潰えてしまうのか。僕がここで死ねば、それで終わりだ。図らずも僕が最後の人間になるとは。
部屋の中には静けさしかない。僕は時間を持て余して、立ったり座ったり、寝っ転がったり、部屋の中をウロウロと歩き回ったりしたが、何の動きも起こらなかった。
他の部屋に通じるドアがあるかと探したが、何も見つけられなかった。この部屋は、入り口も出口もなく、完全な密室になっている。
僕は何事も起こらない部屋の中で、ひたすら孤独と闘うしかなかった。ただ静かな時間が僕を無視して過ぎ去っていく。だんだん時間が動いているのか止まっているかの感覚さえもなくなっていった。
ふと、壁のパネルの一枚が薄く光っているのに気がついた。何だ、一枚だけ電源が入っているのか。見落としていたな。そう思って、僕はパネルに近づいた。
パネルはその瞬間、パッと明るくなり、緑色の数字や文字を勢いよく映し出した。大量の数字や文字が上から下へと流れていく。
その意味など見ても分かるはずもない。僕は何もすることがなかったので、それをただ眺めた。いつまで表示され続けるんだろうと、いいかげん見飽きてきたとき、その流れがピタリと止まった。
その最後の文字は、[HALu]と表示されていた。
ハルさん…。
カチッというクリック音がして、画面が真っ白になった。僕は眩しくて少し目を細めた。そこに文字が表示された。
[待たせたね、カイ…]
(続く…)第6章(2)
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