ウロボロスの回廊 第4章(3)
「あっ、ハルさん」
僕の顔もほころんだ。生きていたんだ。
「突然消えたから、心配してましたよ」
そう言って、僕は思わずベンチから立ち上がった。
「…時空接続ポイントにロック。安定度良好」
「…影響値40で強制離脱」
「…あとはこちらの判断でアウトする」
「すまんな。例の通信だ」
ハルさんはそう言って、僕の顔を見て笑った。
「ハルさん、大丈夫だったんですか」
僕がそう言うと、ハルさんは、いやあ、まいったよと頭を掻いた。
「あれは結構やばかったな。仲間が強制帰還をアクティブにしてくれなかったら、時間にやられていたかもしれない。気がついたら、向こうの世界だったから、私もびっくりだ。しかも、身体にダメージがあってな、ピクリとも動けなくなってた。それで、修復に時間がかかってしまった」
ハルさんは苦笑いをした。
「そうなんですか」
僕は心配声で言った。
「でもな、いろいろと収穫はあった。あの静かな時間のせいか、話をしていたせいか分からんが、君の良質なデータがかなり取れた。向こうの仲間も興味深げだったよ」
「ただ、その仲間も、帰ったら三人機能停止していた。亜人間もあと五人だけになった。私も時間のダメージで機能停止しかけたから、仲間に心配をかけてしまった。まあ、こうして回復したのは奇跡的だな。私が言うのも何だが」
ハルさんはそう言って寂しげに小さく笑った。
「やっぱり大変だったんですね」
僕はハルさんを黙って見た。それから二人はお互いに目を伏せて少し沈黙した。
そうそう、ハルさんが話し始めた。
「人間を起動する準備はかなり整っていた。仲間もかなり頑張ったんだな。機能停止してしまった仲間も、直前まで人間の起動調整をしていてくれた」
「あとは最後のプログラム調整をどうするかだ。そこだけが空白になっている。このまま、何も加えずに起動してしまうか。それとも、絶滅を食い止める何かを加えるか。私が機能停止するギリギリまで待ってみるが、それが見つかるかどうか」
そこで、ハルさんは、ちょっと座ろう、と言ってベンチに腰掛けた。僕も隣に座った。
「ハルさん、あの、聞いてもいいですか」
そう言って、僕はハルさんの方に身体を向けた。
「こうしているときも、私からデータを取っているんですか」
ちょっと気になっていたことだ。
「ああ、もちろん取っているよ。君から流れ出ている貴重なデータをしっかり受け取っている」
ハルさんは当たり前というように話をした。
ああ、やっぱりね…。だからといって、もう悪い気はしない。役に立つなら、何でもしてほしい。むしろ、そうしてデータを取ってくれていることがありがたい。僕にはそのくらいしかできない。
(続く…)
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