ウロボロスの回廊 第4章(2)
ふと、誰かが僕を見ている気がした。あたりを見回したが、公園には誰もいない。
僕はぼんやりと公園の景色に目を向けながら、更に考えてみた。もし可能性があるとしたなら、この時間の流れの外側に行けばいいんだ。
時間の輪の、この世界の構造を超えて。うーん、それはちょっと飛躍し過ぎか。そんなこと現実味がないしな。
時間軸を行き来することはできるかもしれないけど、さすがに時間そのものを越えることなんてできないよな。
でも、もし時間を越えることができるのなら、それは新しい人間の可能性なんじゃないだろうか。なんとなく、その考えが捨てきれない。
そのとき、僕の頭の中で、「それを考えてはいかん」と大きな声が響いた。僕は驚いて、思わず身体をびくっとさせた。何だ今のは、幻聴か。
…、僕は考えを戻した。僕はハルさんの役に立っているのだろうか。いや、僕なんか、何の役にも立っていない。エゴの話だって、何のことかわからない。僕は何もしてないじゃないか。
ハルさんは時空を越えて、生命のリスクを犯してここに来てる。向こうの世界では新しい人間を起動させるために必死になって働いているんだろう。
僕は公園でこうして待っているだけ。ハルさんが来ても、話を聞いたり、思いつきで噛み合わない話をしたりするだけだ。
僕は目を閉じた。そして、風や日差しを感じた。そうして、何も考えずに、ただ、この時間に身を任せた。
すると、また、あの不思議な感覚が起こった。僕はまた離れたところにいて、ひとりベンチに座っている自分を見ている。僕は驚いて座っている感触を確かめたが、確かにベンチに座っている。
だけど、心の中に意識を移すと、僕はベンチから離れたところにいて、そこに座っている自分を見ている。まるで自分が二人いるみたいだ。
どうなっているんだ。そう思って、離れたところから自分の姿をマジマジと確かめていると、ベンチに座ってる僕の身体の前に、ハルさんが忽然と現れるのを見た。
僕は慌てて目を開けた。ハルさんの顔がそこにあった。
「待たせたかな」
そう言って、ハルさんはちょっと笑った。
(続く…)
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