ウロボロスの回廊 第3章(4)
僕は腕組みをして眉間にしわを寄せ、足元を見つめた。これは僕には荷が重いことだぞと思った。ハルさんは僕の話に答えてはくれるが、何というか噛み合っている感じがしない。
それに、話の全体像は何となく分かったが、それの解決方法は指の先にも引っかかってないじゃないか。
まさに目に見えない幽霊を探すようなものか。…それにしても、幽霊か。そんな言葉をハルさんは使うんだな。
僕はその問題について考えることから離れて、ふと、ハルさんと会った日のことを思い起こした。
そういえば、初めてハルさんに会った日…。あの日はいいお天気だった。日なたぼっこには最高の爽やかな天気。
日なたぼっこって何ですかとか、ハルさんは難しいことは知っているのに、日なたぼっこを知らないとはね。
ハルさん、私もやってみようって、二人並んでベンチに座って目を閉じたっけ。何か不思議な気持ちだった。いつもひとりだったから。
ハルさんとは初めて会った気がしないし、あの時、僕は心のどこかで懐かしささえ感じていた。見えないところで、つながっているというか。
僕のことを詩人だとか言ってたなぁ。あの短い時間の記憶は、まだ僕の心の中に暖かな陽だまりみたいになって残っている。そう思い出すと、知らずに笑みが浮かんできそうになる。
「何笑っているんだ」
ハルさんが怪訝な目つきで私を見る。
あっと、バレたか。
「いや、その、最初に会ったとき、ここで二人で目を閉じて、ほら、座ったでしょう。それを思い出して、つい懐かしく思えて」
僕は慌てて口ごもりながら正直に言うしかなかった。
「何だ、そんなこと考えていたのか。私の話で何か思いつくことはないのか。プッシュするわけじゃないが」
ハルさんは少しだけイラッとした顔になった。だけど、そんな不機嫌なハルさんが、何だか可愛く見えて笑いそうになる。
「ハルさんの言っていることはよく分かります。あっ、分からないこともたくさんありますけど。僕にも理解できる言葉で話してくれているので」
そう言って、僕は目線を空に移した。何か話して、この場を取り繕おうとした。
僕はハルさんに目線を戻して話を続けた。
「ハルさんの話を聞いていると、頭が一杯になってしまいます。ちょっと、前みたいに目を閉じてみませんか。日なたぼっこですよ。それでまた風とか暖かさとか音とかを感じてみましょうよ。そうして、一度、頭を空っぽにして、そしたら僕も何かいい考えが浮かんでくるかもしれません」
とは言ったものの、僕はそんなことでいい考えなど浮かぶものかと思った。この場を取り繕おうとして出てきた言葉にすぎない。まあ、口から出まかせもいいところだ。僕は力なく笑いながら、ハルさんを見た。
(続く…)
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