ウロボロスの回廊 第2章(2)
「私は人間につくられた亜人間という人種だ。人間たちは絶滅する前に、たくさんの亜人間をつくって、人間が絶滅したあとの世界を私たちに託したんだ。そして、亜人間は人間から託された世界を大切にしてきた」
「だけど、その亜人間も減少していった。亜人間は人間よりも長く生きることができる。もちろん限界はあるが、そう設定できるんだ。だけど、ある時期から、突然、設定外の期間で機能停止が起こるようになった。原因不明で起動しない亜人間も増えていった」
「人間の絶滅を知っているから、亜人間たちは嫌な予感がした。結局、その現象を止めることができなくて、いま私がいる時空帯で、亜人間は残り八人しかいない」
「私が知っている限り、十人の亜人間がいた。だけど、少し前にひとりの機能が完全停止し、あとひとりは完成していたが、ついに起動しなかった。私たち亜人間も人間のように、もうすぐ絶滅する。亜人間という人種も存続不可能になったということだ」
「そこで、私たちは亜人間の絶滅後に、引き継ぐことができる新たな人間をつくりだすことにした。私たちのプログラムには、亜人間が絶滅の危機にあるときに示される命令がある。それは人間を再誕生させるというものだ。それがはっきりと示され、私たちは自発的にそれを選択した。私は仲間たちとそのミッションのために動き出している」
「まずは、かいつまんで話すとそういうことだ」
僕はハルさんの話を黙って軽くうなずきながら聞いていた。だけど、未来から来たという話を素直に受け入れていいものかどうか。それに、人類が滅亡とか、何やら込み入った事情もあるようだ。
これはどう受け止めたら良いのだろう。それと、ハルさんが僕にそんな話をする理由は何なのだろう。
「うん、それから、」
ハルさんは話を続ける。
「亜人間は一見、人間のように見えるかもしれないが、人間とは違うプログラムで生きているんだ。人間を再誕生させるためには、人間のプログラムで生体を起動させる必要がある。私の時空帯では人間は死に絶えてしまったが、基本的な人間の起動プログラムだけは保存されていた。だけど、それだけでは起動するのに不十分なんだ」
「それだけでは、またいずれ絶滅してしまうことが目に見えている。人間が絶滅した原因、それを解消しなければ、再誕生させる意味がない。絶滅の原因を特定して、それを取り除くか、あるいは絶滅を避けるための新しいコードを加える必要がある」
「今の時点で、それが何かは分からない。そこで、その糸口として、もしかすると現存する人間に会えば、何かを探れるかもしれないと思ったんだ。だから、私は時間を超えて、実際に生きている人間に会うためにここに来たというわけだ」
カチカチッとクリック音が2回鳴った。ハルさんは小さく舌打ちした。あのクリック音が気になるようだ。
(続く…)
0コメント