ウロボロスの回廊 第2章(1)
あの女性との一件があってから、僕が公園に行く回数は明らかに増えた。また、あの人が現れるのではないかと、どこかで期待していたのかもしれない。
だが、女性はそれっきり現れることはなかった。あれは日なたぼっこ中の夢だった、そういうことで僕は納得しようとした。
そうは頭で思いつつも、一方で、もしかすると、また現れるかもしれないという気持ちを打ち消すこともできなかった。ただ、それから一年も経てば、そんな記憶自体が薄れてくる。
そんなことがあったかどうかさえ忘れそうになったある日のこと、再びあの女性が僕の目の前に現れた。
いつものように公園のベンチで目を閉じて座っていると、「ひさしぶりだねえ、覚えているかな」と女性の声がした。
あれっと思って、目を開けると、僕の前に微かに見覚えのある女性が笑顔で立っている。
「ああ、こんにちは。覚えてますよ。もう来ないのかと思ってました」
僕はそう言って、つられて笑顔を返した。
「…ロック完了。コンタクト開始」
「…影響値レベル50で強制帰還」
「…そうだ、50だ。危険は承知だ」
「…その通りにしてくれ」
女性は横を向いて小さく独り言を言っている。
「この間は黙って帰ってしまってゴメンな」
女性はこちらに向き直って、そう申し訳なさそうに言って微笑んだ。
「まあ、いいですよ。いろいろあるんでしょう」
この女性に対して、やけに寛大な気持ちになる自分が可笑しかった。
女性は、いいかなと言って、僕の隣に座った。
「私の名前を教えていなかったね。私の名前はハルだ」
そう言って、左手で僕の肩に軽く触れた。
「ああ、ハルさんですか。えっと、僕はカイといいます」
ハルさんの名前を聞いて、何となく昔から知っている人のような気がした。
「カイか、創造主の名前と同じだな」
ハルさんはそう言って笑った。
「さてと、今日は私の状況を話しに来たんだ。実は、私が君の前に現れたのには理由がある」
ハルさんはちょっと真顔になって話し始めた。
「これから話すことを、信じるかどうかは君次第だ。押し付けがましいようだけど、ちょっとだけ耳を貸して話を聞いてほしい」
「あ、は、はい」
何だろう。ハルさんは僕と友達になるために、ここにいるのではないようだ。何が起こっているのか。そのまま、事態はハルさんペースで進行していく。
カチッとクリック音がした。
「私は未来から来た。どのくらい未来かは時間の認識が君とは違うので、何と言えばいいか分からない。ただ、確かなことは私の時空帯に人間はいない。人間は絶滅してしまったんだ」
(続く…)
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