15:ドライブする夢(5)
次の晩も夢を見た。
僕は走っている車に乗っている。
あら、目が覚めたの。
いつものマギーさんの声がする。
今日は光が強いようだ。
僕はマギーさんを眩しそうに見て、
ええ、と答えた。
ハンドルを持つマギーさんは、
僕を見て、いつものように、
あははっと笑った。
今日は海に行くわよ。
マギーさんは嬉しそうに言った。
車はいつもの砂漠の道を走っている。
海ですか…。
僕はちょっとさみしい気分になった。
そこが最後なのよ。
マギーさんは少し声を落として言った。
はい…。
僕はこれが最後のドライブなのかと思った。
それから二人とも黙っていた。
僕はこの時間と車の振動が好きだったと気がついた。
道の先が開けて、そこから見下ろすように海が見えた。
太陽の光で海面がキラキラしている。
水平線が緩やかな弧を描いて、
その上に白い雲がモクモクと湧き上がっている。
マギーさんは海が見える海岸沿いの道を走った。
しばらくしてから、海岸へと続く道にハンドルを切り、
砂浜で車を止めた。
マギーさんはハンドルを握って僕を見た。
どうするかは君が決めなければならないよ。
私は君を連れていくだけ。
わかってます…。
僕はそう答えた。
マギーさんは車から降りると、
海に向かって歩いていった。
僕も車から降りて、
少し離れてマギーさんの後を歩いた。
生成りのワンピースが風に揺れている。
僕は裸足で歩くマギーさんの後ろ姿を見つめた。
波打ち際でマギーさんは止まった。
僕が隣に並ぶと、僕の顔を見て笑った。
風、光、砂、闇、水。
君は何を選ぶのかしら。
僕はすぐに闇を頭に浮かべた。
でも、分かりませんと答えた。
マギーさんは、あははっと笑った。
そのまま、マギーさんは透明になり、
水の人形のようなって崩れた。
マギーさんは打ち寄せる波にさらわれて消えた。
僕は波打ち際で海風に揺られて遠くの海を見ていた。
それから、砂の上に座った。
海風の音の中に、
マギーさんの笑い声が聞こえるような気がした。
辺りが薄暗くなってきたとき、
僕の隣にジャガーが座っているのに気がついた。
ジャガーは僕の方を見て言った。
おまえは何を知っているんだ。
ジャガーの漆黒の瞳が、
強い視線で僕を捉えて離さない。
僕は自分を知っています。
僕はジャガーにそう言った。
そんなわけがあるか。
ジャガーは少し怒ったように僕を見た。
ジャガーの瞳の黒が顔中に広がって、
それは身体にまで広がり、真っ黒になった。
そして、そのまま闇に消えた。
暗い浜辺を僕の方に歩いてくる人がいる。
僕を見つけて、おーい、大丈夫かぁと声を掛けてきた。
僕は夢から覚めた。
0コメント