15:ドライブする夢(4)
僕はまた走っている車に乗っていた。
あら、目が覚めたの。
そう言って、マギーさんが笑う。
今日はサングラスをしていない。
マギーさんの笑った顔にドキッとした。
ええ…。
僕はまた力なく答えた。
あははっとマギーさんは笑った。
今日はどうしようかな。
どこに行こうかな。
まだ、あそこに行ってないな。
そう独り言を言っている。
道は砂漠ではなくて、森の中の道を走っている。
道路は鬱蒼とした森に挟まれていた。
空はどんよりと曇っていた。
マギーさんはいつもどこに行っていしまうんですか、
僕を置いて。
僕はマギーさんに聞いてみた。
えっ、どこにも行ってないわよ。
マギーさんは不思議そうな顔をした。
いつでも君のそばにいるじゃない。
そう言って、あははっと笑った。
マギーさんは道路の端に車を止めた。
ドアを開けて降りると、
森の中を歩くよ、と言った。
僕も車から降りて、
マギーさんの後に付いていった。
森の中は静かだった。
物音一つしない。
静か過ぎる。
歩いているうちに暗くなってきた。
小さな広場に出た。
木を拾ってきてくれるかな。
マギーさんは僕にそう言うと、
切り株に腰を下ろして、目を閉じた。
僕は木の枝を両腕いっぱいに集めて、
広場に持ってきた。
マギーさんは目を開けて、
よしよしと言いながら、
それに火をつけて焚き火にした。
森はいつの間にか真っ暗になっている。
その暗闇に飲み込まれそうだ。
焚き火の明かりが、
頼りなげに僕たちをその闇から遠ざけている。
ここは昔、エウロパと呼ばれていたんだ。
マギーさんは僕を見て微笑んだ。
それから二人は黙って焚き火の火を見ていた。
そのうちに焚き火の火が小さくなった。
ふと、マギーさんを見ると、
身体が黒くなって森の闇に溶け込んでいく。
マギーさんは悲しそうな顔で、
私を見ないで、と言った。
僕はどうしたらいいか分からず、
どんどん黒く染まっていくマギーさんを見つめ続けた。
そして、マギーさんは闇の中に消えてしまった。
小さな焚き火だけが残った。
僕は自分の両手の手のひらを見た。
僕の身体も闇に侵されて黒くなっていく。
僕は漆黒の闇になった。
森の中からジャガーが現れた。
ゆっくりと歩きながら僕の方に来る。
そして、僕の前で座った。
焚き火の微かな光で
ジャガーの身体がチラチラと揺れる。
そして、あの漆黒の瞳で僕を見た。
森の中で、
あははっとマギーさんの笑い声が響いた。
ジャガーは一度、森の方を振り返ると、
僕の方を見て言った。
おまえは始まりに飛べるのか。
それだけ言うと、スウーッと暗闇の黒に溶けていった。
焚き火の火が消えた。
すべてが暗闇になり、
僕はそこにいるのかどうかも分からなくなった。
そこで目が覚めた。
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