15:ドライブする夢(3)
次の晩も夢を見た。
僕は走る車に乗っていた。
風が顔に当たる、その感触で目が覚めた。
あら、起きたの。
マギーさんの声がする。
ええ…。
僕はそう答えて、マギーさんを見た。
あははっと笑って、
マギーさんは僕の顔を見た。
車は相変わらず砂漠の中を走っている。
ここはね、昔、海だったのよ。
そう言って、マギーさんは前方を指差した。
砂漠の中をクジラが跳ねる。
砂が海のようにうねって、激しく飛沫を飛ばした。
すごい…。
僕はクジラが珍しくて、
その雄大な姿に目が釘付けになった。
たまに見かけるのよね。
そうマギーさんは言って、クシャミをした。
突然、空が真っ暗になり夜になった。
空には降るような星が無数に輝いている。
ひとつひとつの星が小さく震えていた。
うわ、すごい…。
僕は車の窓から上を見上げたまま、
その星空に見とれた。
ちょっと寒いね。
マギーさんは肩をすくめた。
車は夜中の道をヘッドライトも点けずに走っている。
それでも、星明かりで道は見えていた。
さて、どこに行くかな。
マギーさんは独り言のように言った。
僕はいつまでも星を見ていたくて黙っていた。
マギーさんは道の端に車を止めた。
そして、ドアを開けて降りると、
柔らかい砂漠の砂の上に大の字で寝っ転がった。
僕も車を降りて、
マギーさんの隣りで同じように大の字になった。
満天の星空が遮るものなく目の前に広がっている。
砂がヒンヤリして気持ちがいい。
僕の身体を優しく包み込んでいく。
こうしてずっと見ていたい。
しばらくして、
ふと隣りを見ると、マギーさんがいなくなっていた。
車もなくなっていた。
まあ、いいか。
そう思ったが、僕の身体もなくなって、
砂になっていた。
そこには砂と空気と夜空だけがあった。
僕はそれを眺めていた。
遠くで、あははっと笑うマギーさんの声がした。
コンビニの店員さんの笑うんだよというセリフを思い出した。
僕もあははっと笑ってみた。
笑い声は空気を振動させて、
砂漠に響き渡った。
夜空の星たちからも、小さな笑い声が起こった。
夜空はたちまち笑い声でいっぱいになった。
そして、静かになった。
ジャガーが音もなく僕に近くに来て座った。
砂になった僕を黒い瞳でじっと見ている。
僕は砂になったので、
何の恐怖心もなかった。
ジャガーの目の深い黒色が美しいと思った。
ジャガーは空を見上げると、
一瞬にして砂になって、サーッと崩れた。
それで僕とジャガーはひとつになった。
僕は目が覚めた。
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