15:ドライブする夢(1)
それは夢だった。
夢だったが、とても明晰だった。
夢の中で、僕は車の助手席に座っていた。
運転していたのは若い女性だ。
その女性はサングラスをして、 ハンドルを握っている。
窓から巻き込む風に髪の毛が踊っていた。
すぐに僕はこれが夢だと分かった。
ただ、夢にしてはリアルだなと思った。
窓の外は砂漠だった。
太陽の光が眩しい。
あら、起きたの。
女性はそう声をかけてきた。
えぇ。
僕は戸惑って、誰だか知らない女性に力なく返事をした。
窓から風の音が強くて、
声が女性に届いたか分からない。
それでも、女性は私をチラッと見て、
聞こえたかのようにニコッと微笑んだ。
私はマギー、君は…。
あっ、僕はジンです。
マギーさんは、あははっと笑った。
なぜ笑ったのか分からない。
そのまま、二人は黙った。
車の中の風の音だけが過ぎ去っていく。
あのぅ、どこに行くんですか。
僕はふとマギーさんに聞いてみた。
さあ、どこかなぁ。
マギーさんはそう言って、あははと笑った。
道は砂漠の一本道で、
それはずっと先の薄茶色い丘の向こうへと続いている。
周りには何もない。
突然、マギーさんは車速を緩めた。
ちょっとコンビニに寄ってくね。
そう言って、ハンドルを切った。
砂漠かと思ったそこは、
コンビニの駐車場だった。
ああ、これは夢なんだ。
何でもありだ。
さあて、食べ物と飲み物を調達するよ。
そう言って、マギーさんは車を降りた。
僕もマギーさんに付いていった。
コンビニは特に変わったところはない。
ただ、店員さんやお客さんが、
マギーさんを見て笑顔になった。
こんにちは、マギーさん。
マギーさん、どうも。
そう、にこやかに声をかける。
マギーさんは、そんな声に軽く頷くだけだ。
店の中をキョロキョロ見回しながら歩き、
商品をいろいろと腕に抱えていく。
僕はペットボトルの水を手に取った。
なんだ、それだけでいいのか。
マギーさんはサングラスをずらして、
その奥の目で僕を見てそう言った。
ええ、でも、僕お金持ってないですよ。
そう言うと、マギーさんは、あははと笑った。
マギーさんは笑いながら、
そのまま商品を抱えて車に乗り込んだ。
だれも何も言わない。
僕はペットボトルを持ったまま、
どうすればいいか困惑した。
店員さんに、これもいいんですかと
ペットボトルを見せて聞いた。
良いわけないだろう。
店員さんはそう言って僕を睨んだ。
やっぱり、そうですよね…。
僕はペットボトルを戻そうとした。
そうじゃない。
店員さんは僕の腕をつかんで引き止めた。
笑うんだよ。
そう言う店員さんの顔は笑っていない。
えっ、あっ、はい、
僕は店員さんに向かって、
ぎこちなく、あははと笑った。
店員さんは、ニッコリして、
気をつけてな、と言った。
どうも…。
僕はそう言って、店を出て車に向かった。
だけど、そこに車もマギーさんもいなかった。
そこで目が覚めた。
(続く…)
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