超人ザオタル(25)道を語る
ある晩のこと、アルマティが私の部屋を尋ねてきた。
私は椅子に座って、書棚にあった古い本を何気なく眺めていた。
「少し時間がありますでしょうか、ザオタル」
遠慮がちではあるが、その言葉に何か決心のようなものを感じた。
「もちろん、大丈夫だよ、アルマティ」
私は本から目を上げて微笑んだ。
自分でも理解できなかったが、その時が来たと思った。
私の心が歓びで踊っているのを感じていた。
「道のことを教えてほしいのです。
私たちふたりはここでの暮らしがあるため旅に出られません。
でも、私は道のことがとても気になっています。
あなたは長く道を旅して来られた。
そのことを少しでもいいので話してくれませんか。
もちろん、話せることだけで構いません」
アルマティは少し緊張しているような面持ちだった。
私はアルマティが道に興味があることを知って驚いた。
私はアルマティに椅子をすすめた。
「道のことを知っているのだね、アルマティ。
道を歩くことはそう難しいことではない。
だから、期待に応えるようなことなど語れないかもしれない。
…そう、道というものは終着地を見つけることが難しい。
それがいまの私に語ることのできる確かなことだ。
私もその終着地を見つける途上にある。
それを見つけなければ、私は道をまったく知らないと同じなのだ。
私はそれを知らないため、道について堂々と語る資格はない。
残念なことだが。
ただ、道というものはいくつもに分かれた分岐を選択すること、
草原を方向だけを頼りに歩いていくことだけではない。
実は心のなかにもその道があるのだ。
その道を歩まなければ、私のいままでの旅は無駄なものに成り下がる。
私はようやくその道に辿り着き、歩み始めたところだ。
それはまるで初めて道を歩むような、そんな気持ちにさせるところ。
こんなことしか語ることができないのだが」
アルマティは私の話を目を輝かせて聞いていた。
「私の勘は間違っていませんでした、ザオタル。
私は岩山の下で倒れているあなたを見過ごすことが出来ませんでした。
それはあなたが真の道を旅する者だと感じたからです。
きっとあなたが私を導いてくれると強く思ったのです。
もちろんそれは私の勝手な思い込みなので、お気になさらずに。
道を行く人の言葉は私にとってとても貴重なのです。
それがどんな言葉だとしても。
本に書かれているのではなく、実際に道を行く人の言葉だからです。
また、道の話を聞かせてくださいませんか。
今夜は遅いのでこのくらいで失礼します」
「それはもちろん大丈夫だよ、アルマティ。
こんな話でよければ、いくらでもお聞かせする」
それが私のせめてもの恩返しかもしれないと思った。
だが、このことが私の道への想いを呼び覚ますきっかけになった。
0コメント