超人ザオタル(11)道探し
「やあ、こんにちは」
私は笑顔で軽く頭を下げた。
「道探しですか」
少年は私たちを知っているような顔をしていた。
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「まあ、そんなところだよ」
私はそう言って、少年の賢さを称えるように胸に手を当てた。
「ぼくはイサト」
「私はザオタル、こちらがミスラだ」
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「ずっとあなた方がここに歩いてくるのを見ていたよ」
少年は振り返って草原に目をやった。
「ここには道はないですよ、ザオタル」
ゆっくりと私に顔を向けながらそう言った。
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「それでも歩いて行かなければならないのだよ、イサト」
私はそう言いながら少年の肩越しに草原を見た。
本当に道などないのだ。
強いて言えば、私が歩いたところが道になるか。
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「それはそうだけど、でもまあいいや」
少年は何かを知っているようだったがそこで口を閉じた。
「君はここで何をしているの」
ミスラが少年に尋ねた。
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「ぼくは何もしていないんだよ、ミスラ。
ただ、ここで草原を眺めているだけなんだ」
少年はそう言って胸を張った。
それがとても大事な仕事だというように。
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「そんなんだね、イサト」
ミスラはそう言って安心したように笑った。
草原を往く風が木の葉を揺らして鈴のような音を鳴らした。
それが出発の合図のような気がした。
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「さて、そろそろ行こうか、ミスラ」
そう言って私は立ち上がった。
「またどこかで会おう、イサト」
「そうだね、また会えるかもしれませんね、ザオタル」
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私たちは少年の木を背にして歩き始めた。
その木だけがこの草原にあって唯一の目印なのだ。
歩きながら振り返ると、あの木は小さくなっていた。
いつしかそれは小さな影になって地平線に消えていた。
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「不思議な少年だった。
どこかで会ったことがあるかな」
私は独り言のようにつぶやいた。
草原の風がそれに無言で応えた。
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道を選択する必要のない旅はある意味自由だった。
だが、私は次第にその自由さが苛立たしくなってきた。
いったどの方向に私たちは向かっているのか分からない。
どれだけ歩いても同じ景色しかないのだ。
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ミスラはとなりで涼しい顔をして歩いている。
ときには気楽そうな笑顔さえ浮かべているのだ。
そんなときはあらためて不思議な女だと感じる。
それでも道を行く友がいることは正直心強かった。
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ミスラがいるから私はこの旅を続けているようなものだ。
そうでなければ、とうの昔にやめて小屋に引きこもっていただろう。
だが、この旅の目的が見えてこない。
なぜそうまでして私はここを歩いているのだ。
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