超人ザオタル(10)道なき道
誰かが前を歩いている。
私たちは道を歩きながらその後姿を捉えた。
その人に追いつきたいと足を早めた。
だが、なかなかその差は縮まらなかった。
-
むしろその後姿は遠ざかっていった。
そしてついに見えなくなった。
「あれは誰だったのでしょうね」
ミスラがそうつぶやいた。
-
「瞑想していた若者かもしれないな」
追いつけなかったことが不思議であり、残念だった。
どこかの分岐で離れ離れになるだろう。
そうなれば、もう会うこともない。
-
突然、道がなくなった。
目の前には広大な草原が広がっている。
「これはどうしたものかな」
私は立ち止まって草原を眺めた。
-
ミスラも黙って草原を見ている。
「まあ、行くしかないだろう」
そう言って、私は草原に足を踏み入れた。
もう分岐はないので、そこを自由に歩くだけだ。
-
ミスラも私に従った。
いままでは道があったから歩くことに迷いはなかった。
分岐はあっても、道がなくなることはなかったのだ。
道がなくなると、目指すべき何かが必要になる。
-
草原は地平線まで何もなく広がっているだけだ。
何を目指すべきかも分からない。
はじめはただまっすぐに歩いた。
だが、すぐに果たして真っ直ぐに歩いているのかさえ定かではなくなった。
-
四方八方が草原で地平線まで続いている。
かすかに風が吹いて、草を波のように揺らしている。
立ち止まると、もう方向が分からなくなる。
「これも道なのか、ミスラ」
-
ミスラはそれに何も答えなかった。
答えようもないな、と私は気づいた。
とてつもなく広い道だと思うしかない。
「ここでも、歩き続けるべきなのか」
-
私は独り言のようにつぶやいた。
「あるき続けるべきです、ザオタル」
ミスラも独り言のようにつぶやいた。
そうだな、私は自分を納得させるように言った。
-
遠くに一本の木立が見えた。
私たちは自然とその木を目指して歩いた。
小さな影のように見えたその木は近づくと意外に大きいと分かった。
大樹は豊かな緑の葉をつけて、まるで草原の王のようにそびえている。
-
私たちは休息するため木陰に腰を下ろした。
そしてそこから黙って草原を見渡した。
ガサガサと木の上から音がして、誰かが降りてきた。
それは少年で、日焼けした褐色の肌をしている。
-
慣れた感じでひょいと地面に降り立った。
「こんにちは」
少しはにかんだような笑顔でそう言った。
その顔に健やかさと賢さを感じる。
0コメント