超人ザオタル(9)変わらぬ日々
私は休息の時間に道端で瞑想するようになった。
方法など分からず、ただ座って目を閉じるだけだったが。
そうしていると、心が落ち着いてくる気がした。
そして瞑想が終わると私は再び歩き始めた。
ミスラも私と一緒に瞑想するようになった。
気づけば大勢の人々も瞑想していた。
瞑想の時間はそこだけ時が止まったようになった。
世界は夜空のような静寂で満ちていった。
私は長い間、道を歩いてきた。
だから道がどのようなものかはおおよそ知っている。
自分が何をしているかは知っているつもりだった。
だが私はその歩いている自分が誰なのか知らないことに気づいた。
それから私は自分が誰なのかを考えるようになった。
歩いているときも、瞑想しているときも。
「あなたは誰なの、ザオタル」
ミスラは不思議な顔で私を見つめて言った。
次第に後を付いてくる人々が減り始めた。
道の分岐で私とは違う方向に歩いていったのだろう。
ついには私の後に誰もいなくなった。
私はまたミスラと二人きりになった。
それでも私はいつもように歩いて、そして瞑想をした。
ミスラもそれに付き合った。
ただ道を歩き、そして瞑想をする。
そんな二人の日々が続いていった。
あるとき、道の反対から人が歩いてきた。
いままで人とすれ違うことなどなかった。
私は一体それが誰なのか興味を持った。
それは埃まみれの灰色の布をまとった初老の男だった。
私は近づいたその男に挨拶しようとした。
だが、男は私に目もくれずにすれ違った。
振り返ると、男の背中があっという間に遠ざかっていく。
男にとって私などまるで存在してないかのようだ。
「誰なのでしょうね」
ミスラは独り言のように言った。
男の歩く姿が見えなくなると、また二人になった。
道はいつもの通り静かだった。
それから数日が過ぎた。
道端で瞑想をしている若い男がいた。
私たちは邪魔にならないように少し離れたところに座った。
そして同じように瞑想をした。
瞑想が終わって、若い男のいた場所に目をやった。
だが、そこにはもう誰もいなかった。
「あの人はどこにいったのでしょうね」
ミスラはまた独り言のようにつぶやいた。
「ミスラ、私はあの小屋に戻ろうと思う。
これだけ道を歩いてきて何もないのだ。
これ以上旅をしてきて何になるのだ。
私はもう休息につきたい」
私はついに自分の思いをミスラに告げた。
「まだ機が熟していないのです、ザオタル。
小屋に戻っても時が止まるだけで、
歩くべき道は残ったままです」
ミスラはそう言って泣きそうな顔で私を見つめた。
予想できた答えだったので驚きはなかった。
そうか、とだけ言って黙った。
私は立ち上がって、また道を歩き始めた。
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