超人ザオタル(8)記憶の重し
私はとにかく体力の続く限りその日を歩いた。
私が道の端に止まって休息を取ると後の者たちもそうした。
それはひとつの大きな集団のようになっていった。
だが、私は誰とも言葉を交わさなかった。
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ミスラはそんな私に何の不満も言わず付いてくる。
ここまでは私の想定していたことだ。
これから先が分からないのだ。
それが分かるまで歩き続けるしかない。
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私が先頭に立ち、その脇にはミスラがいる。
その後には大勢の人々。
そんな旅がゆっくりとした時間の中で幾日も続いていった。
選択する道はその時々に厳しかったり気楽だったりした。
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ある日、私は目の前の長い一本道を歩きながら考えた。
この旅はこのまま永遠に続くぞ。
私が期待している終わりなんてないのだ。
このまま歩き続けるべきなのか。
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ミスラは相変わらず黙って私のそばを歩いている。
何の楽しいことも、何の発見さえもないのだ。
いったいミスラは私の何を待っているのか。
それが何にしろ叶わぬことだと言ってやりたかった。
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だが、私はミスラがいるから道を歩きき続けているのだ。
あとに続く大勢の人々もそうだ。
黙って何も言わず、私に何を期待するでもなく。
ひとりではないということが私を道の先へと突き動かしている。
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それでも私は何も出来ないでいる。
これで何かを成し遂げようとも思っていないのだ。
道を歩く日々をこなしているだけだ。
いつかこの身体が倒れてそこで朽ち果てるまで。
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それは大いなる失望になるだろう。
私はただ道を歩いただけだったのだ。
ミスラや大勢の人々と何が違うというのだろう。
道を選択できることなど些細なことでしかない。
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どんな選択をしたかなど、薄れていく記憶の産物になるだけだ。
それを掘り起こして背中に掲げて輝きを増そうとしたこともあった。
だがそれはだたの重石にしかならない。
それに縛られれば、歩くのが辛くなるだけだ。
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それを見て人々は感嘆の声を上げ、その姿を称えるかもしれない。
だが、真実を知っているのは自分だけだ。
その中身は何もないのだ。
そんな誇りを高く持つことは何の意味もない。
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いまはただなりふり構わず道を歩いている。
これだけが私の現実なのだ。
そして誰にとってもそれは同じ現実なのだ。
道を歩いて分かったことはそれだけだ。
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これ以上歩いても、何も新しいことなど起こらない。
すでに経験したことの繰り返しが何度も起こるだけ。
私の感情はその経験を記憶の倉庫に投げ込む。
その倉庫は何の整理もできないまま乱雑に放置されている。
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それが整理されていようと何も変わらないだろう。
結局、記憶など何の役にも立たない。
新たに起こる現実の衝撃は古い記憶など一瞬で掻き消してしまう。
その次に踏み出す一歩だけが私の現実なのだ。
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